【スポーツ】東京五輪・陸上期待の星、大迫傑とサニブラウンの共通点

 東京五輪の開催が決まってからというもの、箱根駅伝のランナーの間で「箱根は通過点」という言い方が、ひとつのブームになった。しかし、本当の意味で、そう考えていたのは、先の陸上日本選手権の男子1万メートルで連覇を達成した大迫傑くらいだろう。

 14年冬、大学最後の箱根駅伝のときのことだ。早大のキャプテンでもあった大迫は、11月中旬、アメリカでトレーニングを積むために約1か月間、チームを離れた。他の大学では考えられないことだ。スタートダッシュを目論むチームは、本番で、エース・大迫を1区に起用。しかし、区間5位と不発に終わり、最終的に早大は4位に沈んだ。そのときの大迫の言葉が忘れられない。

「駅伝に興味はない」といって憚らなかった大迫に批判の矛先が向かうことがないよう、傲慢にも弁明の場を与えるつもりで、こう聞いた。

 -箱根のために、という思いもあったと思うんですけど。

 「なんか言った方がいいですか?」

 大迫はうっすらと笑みを浮かべていた。そんな必要はない、と言っているようだった。おそらく、こちらの欺瞞も、すべて見透かされていた。

 大迫は、当時から完全に自立していた。メディアが過剰に飾り立てた張りぼてのドラマに乗らない、強靭さを感じた。

 早大時代の恩師・渡辺康幸(住友電工監督)は言う。

 「大学生のほとんどが箱根を一年間の目標にしている。『マラソンで東京五輪を目指す』と言い、実際に行動に移しているのは5%いるかいないかでしょう。大迫ぐらいいろいろな意味で突き抜けていなければ『箱根を踏み台に……』とまでは考えられない。人がよかったら、そういう発言もできないですからね」

 大迫は大学卒業後、日清食品を経て、世界的スポーツメーカーのナイキ社が立ち上げた米オレゴンのエリート集団「ナイキ・オレゴン・プロジェクト」に移籍した。後押しした渡辺は、こう話す。

 「あそこの練習は、想像以上。国家プロフェクトですからね。日本のやり方は、こんなに遅れてるんだ……と思った。あいつの活躍をおもしろく思ってないやつは、いっぱいいると思いますよ。彼の選択は、従来の日本式を否定しているとも言えるわけですから。それだけに失敗したときのリスクは大きい。でも、あいつだけですよ、本気で勝負しているのは」

 日本選手権で男子100メートル、男子200メートルの2種目を制し、大会の主役となったサニブラウン・ハキームも、高校卒業時、日本の大学間で争奪戦が繰り広げられたが、そうした狂騒を尻目に海を渡る決断をした。今秋から、フロリダ大学に進み、練習拠点もフロリダに置く予定だ。

 テニスの錦織圭やゴルフの松山英樹の成功例からもわかるように、これからは、早い段階で海外に渡り、そこで戦うことが当たり前になるくらいタフにならなければ、世界レベルにはついていけないのではないか。

 早くから海の向こうを見ていた2人が、今回の日本選手権で他を圧倒したのは、偶然ではない。(ノンフィクションライター・中村 計)

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