【スポーツ】宇良が初金星で号泣した理由…大相撲名古屋場所の“ウラ話”
大相撲名古屋場所(9~23日、愛知県体育館)の“ウラ話”。9日目、初金星を挙げた東前頭4枚目の宇良(25)=木瀬=がNHKのインタビュールームで号泣した。撃破した横綱日馬富士(33)=伊勢ケ浜=が相手だったことも涙腺が決壊した要因だろう。
人気業師の快挙の取組を振り返る。日馬富士のお株を奪う低さで潜り込むと、相手の右腕を抱えて迷わず投げた。2秒6、電光石火のとったり。15年春場所で初土俵を踏み、2年半。所要15場所での金星獲得は1位・小錦の14場所に続き、大砂嵐、北勝富士に並ぶスピード記録(幕下付け出しを除く)だった。
インタビューで「信じられない。もうちょっと(言葉が)出てこない」と声を詰まらせ、こらえきれない。何筋も涙が頬を伝った。
自宅のテレビでは母・信子さんも「良かった、良かった」と声をふるわせていた。「泣いた顔が小さい頃とそっくり」。愛息・和輝のくしゃくしゃの顔は昔のままだった。
仕事もあり、遊びにあまり連れて行ってやれなかったものの、愛息の好きな相撲が母子の絆だった。相撲のイベント、大会など近所であれば欠かさなかった。年に1度、地元大阪で行われる3月の春場所も1場所で2、3回は観戦に訪れた。
小学生当時、宇良が一番食い入るように見たのが安馬。今の横綱日馬富士だ。細身の体で大きな力士に果敢に挑み、投げ倒す姿は、体が小さかった宇良少年にとっては、夢のような光景だったろう。
中学入学時に47キロ、高校入学時に53キロ、大学入学時は65キロと体重は増えなかった。宇良が11年間所属し相撲の基礎を学んだ寝屋川相撲連盟で当時監督を務めていた菊池弘至氏からは「安馬のようになれ」と指導を受けていた。「礼儀、所作、人間的にも素晴らしい力士」。宇良にとっては尊敬し続けた人が日馬富士だったのだ。
菊池氏は「宇良は泣かなかった」とよく覚えている。小学生にとっては頭からぶつかる稽古など怖くて痛いもの。大抵の子は泣く、という。その中で宇良だけは転がされ、泥まみれになっても黙々と向かってきたという。
気持ちの強い宇良が見せた涙。137キロと大きくなるまで重ねた努力は母が一番、分かっている。「あの安馬とやるだけでもすごいのにね。勝ったなんて。周りはもうそっとしておいてやって下さい。慌てず騒がずに」。母の願いは痛い程分かるが、希代の業師、宇良劇場はまだまだ注目を集めそうだ。(デイリースポーツ・荒木 司)