【野球】報徳学園・大角監督の涙のわけ

 高校野球の地方大会が佳境を迎え、各都道府県の代表が決まってきている。春夏連続甲子園出場を目指した報徳学園は準決勝で、ともに今センバツに出場した神戸国際大付に1-2で惜敗した。

 センバツではベスト4。この大会限りで勇退を表明していた永田裕治監督(53)から後を継いだのが、永田監督の教え子で部長を務めていた大角健二監督(37)だ。夏の甲子園の夢が途絶えた試合後、大角監督はナインの前で泣いた。「3年生のみんなには申し訳ない。全面的にオレの責任や。君らは強いのに、監督の差で負けた」と声を絞り出すように謝り続けた。1点を争う試合で自身の采配を悔やんだ。

 報徳学園、立命大で主将を務めた同監督。強いリーダーシップとキャプテンシーは皆が認めるところだった。大学卒業後から永田監督が後継者として育ててきた理由もそこにある。だからこそ、取り乱したように泣く新監督の姿に驚いた。

 名門校の監督は、多くを背負う。勝ち続ける宿命とともに、その名を汚してはいけないという重圧もある。実績をつくった監督の後を継げばなおさらだ。OBも新監督の一挙手一投足に注目しているだろう。

 どんな名将も最初から順風満帆に行くわけはない。記者自身も、この経験は監督としての第一歩だと感じながらその場面を見ていた。

 しかし、目の前の大角監督はそんな浅はかな思いを打ち消すかのように、ナインにこう言った。「(この夏を自分の)ステップアップの材料にするつもりなんてなかった。だからこそ、この夏は絶対に優勝したかったんや。なのに…」

 新チーム発足時には、県大会への出場権がかかる地区大会を勝ち抜くことが目標というレベルだった。永田前監督も「甲子園は考えられなかった」という世代。しかし、岡本主将を中心に努力家の選手が多く、チームワークのよさも武器に少しずつ力をつけてきた。センバツではエース西垣や捕手の篠原がプロから注目される存在にもなった。

 “弱いチーム”は、歯を食いしばってはい上がってきた。大角監督の涙の本当のわけは、人生で一度しかない3年生の最後の夏への強い責任感だ。彼らの夢をただかなえてやりたかったのだと思う。

 「この負けは絶対に無駄にはしない。思いは後輩たちが必ず輝かせてくれる。お前らの人生はここからやぞ。人生の勝利者になってほしい」。必死にそう訴える大角監督の姿に、ナインも号泣した。

 エース西垣は「大角先生の言葉はいつも心に届いていた。だからこそ、甲子園に連れて行きたかった」と言った。監督と選手としてはたった4カ月。ただ、濃密な時間は、長さを超える価値があった。自分たちのために泣いてくれた新監督の思いは、今後の人生でも彼らの宝物になるだろう。(デイリースポーツ・船曳陽子)

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