【野球】阪神・藤浪、タオル投入の意味…死球受けた大瀬良は笑顔を送った

 駆け足でベンチへと戻る藤浪に、スタンドからは拍手が注がれた。異様だった。16日の広島戦(京セラドーム大阪)、変化を見せるはずだった登板。2死球に騒然とした球場は、エールを送るしかなった。4回2/3を7安打3失点。5月26日のDeNA戦(甲子園)以来、82日ぶりの復帰戦で7四死球。結果はあまりにも無残だったが、全てが「無」だったわけではない。

 初回だ。田中のバント安打、菊池の中前打後に四球などを挟んで1死満塁。松山に左翼フェンス直撃の適時打を浴びた。確かに失点はしたが、この打席ではこの日最速の159キロを計測。直球の強さに復調を予感させた。カットボールもゾーン近くでまとまっていた。バッテリーを組んだ梅野も、その兆しを感じている1人だった。

 「初回はストレートも走っていましたし、それなりにらしい投球だったと思います」

 ただ、その予感は直後の1球で暗転した。二回だ。1死走者なしで打席に大瀬良。1-1から3球目、145キロがスッポ抜けた。左肩に強打。左肩に死球を受けた大瀬良がうずくまると、藤浪は顔をこわばらせながら帽子をとって謝罪した。同じ投手として心境を察したのか、その刹那、大瀬良はマウンドへ向けて「大丈夫、大丈夫」と笑顔を送った。ベンチに治療のために戻った後、再び笑顔でグラウンドに戻り、一塁へ駆け足で向かった。

 この回は無失点でしのいだが、続く三回だ。先頭の鈴木に四球を与えると、1死から西川に左中間を破られた。安部にも一、二塁間を抜かれて2失点。ストライクを取ることに苦心する投球に、いずれも初球の直球を狙われた。四回は2死から菊池にこの日2個目の死球。両軍がホーム付近で、にらみ合う事態に発展した。

 五回、再び先頭の鈴木に四球。2死を取ったが一、三塁から石原に四球を与えた。5個目の四球。続く打者は投手・大瀬良だったが、たまらずベンチからタオルが投入された。投じた107球中、半数近い54球が変化球。課題とする右打者のべ11人に対して1安打、7四死球だった。直後に、スタンドの拍手だ。温かい声援に切なさも覚えたが、誰もが藤浪の存在を認めるからだろう。必死のリードで鼓舞した梅野も、何度も笑顔を向けた大瀬良もそうだ。香田投手コーチが言う。

 「メカニズムの部分では、すごく良くなっている。スピードも随分出ていたし、いい方向で流れてはいた。あとは本人の気持ち次第。そこの戦いになってくる。彼の中で克服して強くなってほしい」

 降格後は約1カ月のミニキャンプを挟むなど、投球フォームを見つめ直して再起を図った。岩貞の不振に秋山、メッセンジャーの故障離脱。首脳陣は先発の台所事情は厳しくても、中途半端な形での昇格を望まなかった。藤浪の不安払しょくを待つために我慢を重ね、このタイミングでの1軍合流を決断した。金本監督は我が子に厳しく接するように「人生を左右する」と、あえて厳しい言葉で奮起を促した一戦。結果は伴わなくても、内容には「ボールはまずまず。変化球でカウントも取れていたし。試合を壊したわけじゃない」と一定の評価を与えた。

 17日に出場選手登録を抹消され、2軍練習に合流。再度、10日の調整期間を挟んで、最短で27日の巨人戦(東京ドーム)に先発する可能性が高い。「自分も悔しい思いがあるし、僕以上にアイツは悔しい思いをしている。1軍のマウンドでやり返すというか…『こういう場所で投げきらないといけない』と本人も言っていたので。次はやってくれるんじゃないかと思います」とは梅野。苦しむ先の出口はまだ、見えない。ただ、一筋の光が差し込めているのも、事実だ。(デイリースポーツ・田中政行)

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