【野球】広島V貢献の1人、シーズン完走の用具運搬係・前洋央さん
リーグ連覇を達成した広島で、用具運搬係の前洋央さんが初めてシーズンを“完走”した。片道12時間の東京-広島間を中心に北は北海道までハンドルを握り、野球道具を運び続けた。
レギュラーシーズンの最終戦(DeNA戦)を終えた翌日、2日の午前9時。マツダスタジアムの駐車場に1台の6トントラックがあった。前日1日の夕方に横浜を出発。「今回は荷物が少なかった。無事に届けられて良かった」と言いながら、荷台から用具を下ろした。昨季途中から、それまで40年間ドライバーを務めた叔父の真澄さんから譲り受けた。1人きりでの仕事は今季が初めてだった。
高速道路を使った移動がほとんど。「夜は景色が変わらないから大変。昼間なら風景に変化があって飽きないんだけど」と笑う。偶然に遭遇したファンから携帯電話のカメラでトラックを撮影されることにも慣れた。適度な休憩を挟みながら目的地を目指す中で都市部では地元ラジオに耳を傾け、山間部で電波が入らない区間は、J-Popが車内に流れている。「GLAYとかサザンとか。SPEEDもよく聞いています」。30代半ば。青春時代を過ごした1990~2000年代にヒットした懐メロがお気に入りだ。
長時間の移動となるが、指定時間に遅れたことは一度もない。ただ、この仕事を請け負う上で責任の大きさをあらためて感じた出来事があった。8月11日、マツダスタジアムでの巨人戦。巨人側が試合用のアンダーシャツなどの衣類を運ぶ荷物車の到着が遅れたことにより、試合開始が30分延びた。「自分だったら、と思ったらゾッとした。選手にも相手球団にも迷惑がかかる」
リーグ連覇の瞬間は、甲子園のベンチ裏で迎え、神戸市内の宿舎で行われたビールかけにも参加した。「選手からいつもありがとうございます、と言ってもらえたときには充実感があります。うれしいですね」。レギュラーシーズンが終わった。次にハンドルを握るのは日本シリーズだ。日本一を目指して戦うナインを陰で支えていく。(デイリースポーツ・市尻達拡)