【スポーツ】対戦相手が肌で感じる宇良の「奥行き」
大相撲で人気を誇る業師、幕内宇良(25)=木瀬=の技能に関し、幕内正代(25)=時津風=が納得の分析をしていた。
秋場所(24日千秋楽、両国国技館)初日に敗れた後だ。「土俵際で奥行きがあるんです。他の力士より宇良はもう少しある。懐が深いというか、外が2段階になっている。外に押し出した感覚なのにいなくなっている」。土俵際の粘り、柔らかさは幕内屈指で、何度も逆転星を拾ってきた相撲巧者が言うだけに説得力がある。
相撲を振り返ってみる。立ち合い、いつも通り頭を低くして当たってきた宇良をはね上げた。好機と見るや、一気の出足で俵に詰めたが、回り込まれ、右手を取られ、土俵外に吹っ飛ばされた。相手はつま先を俵にかけ、ギリギリ残っていた。
「立ち合い、あまりにもうまく当たり過ぎて走った。突き離して様子を見るつもりだったんですが…。苦手ということなんでしょうね」。まるでワナに自ら飛び込んだかのような感覚だった。
初対戦となった夏場所(5月28日千秋楽、両国国技館)11日目も送り出しで敗れている。下から押し上げられ、出たところをたぐられ、後ろに付かれた。
正代は熊本農高時に国体優勝、東農大2年時に学生横綱を経験した。相撲エリートだからこそ、染みついている間合いがある。幼少期より小兵だった宇良「ほとんど負けてきた相撲人生」と言う。“雑草”がエリートに一泡吹かすために身につけたのが「2段階の奥行き」なのだろう。
一方で宇良に無類の強さを誇るのが幕内貴景勝(21)=貴乃花。プロで7勝1敗。押し相撲で立ち合いからパワーで圧倒し何もさせない。「何をしてくるんやろう、て気にし過ぎなんじゃないですか。宇良関だからと言って何も変えていない」
ただ貴景勝は兵庫・報徳中学時代、関学大相撲部に出稽古に行っていた。体重65キロ以下クラスの大学生・宇良を相手に何番も稽古した。「五分五分くらい。当時はもっと技を出していた」と“原石”のころから「奥行き」を肌で体感した強みがあるのは間違いない。
秋場所の宇良はその貴景勝との一番で古傷の右膝を痛め、3日目から途中休場した。師匠の木瀬親方(元幕内肥後ノ海)によれば右膝十字靱帯(じんたい)の「断裂」で手術の可能性もあるという。
土俵際が持ち味ながら、無理な体勢はケガにつながるのは確か。「お客さんが喜ぶ相撲を(もう1度)取れるように」と親方は弟子の思いを代弁した。まずは治療を優先。よみがえり、再び土俵際の絶妙な「奥行き」を見せて欲しい。(デイリースポーツ荒木 司)