【野球】オリックス・小林が血まみれになっても守りたかったモノ-

 右目上に8針の縫い痕が残る小林
2枚

 オリックスのドラフト5位・小林慶祐投手(24)=日本生命=が、9月30日のソフトバンク戦(京セラ)で顔面に打球を受けながらも守りたかったモノとは何だったのか。

 記者席で体が震えた。六回。ソフトバンク・高谷のライナーが小林の頭部を直撃。ボールが右翼方向に転々とする中、小林はマウンド上で倒れ、足をばたつかせて、のたうちまわった。頭部から出血しているようで、最悪の事態が頭をよぎるアクシデントだった。

 その後、グラウンドに救急車が入って緊急搬送。救急車が到着までのおよそ10分の時間が本当に長く感じられた。

 幸い大事には至らず。その日のうちに球場に戻り「ボクサーの気持ちが分かりましたよ」と、大きく腫れ上がった右目を見せて気丈に振る舞った姿にホッとした。

 後日、あのプレーを振り返ってもらった。

 「当たった瞬間『ボールを捕りに行かないと』と思ったんです。でも右目の辺りから出血していて、血を見た瞬間にめちゃくちゃ痛くなって、頭もふらついて。『後ろに倒れたらダメ』と思って、なんとか前に倒れたんです」

 そして、足をばたつかせて、のたうちまわった。

 「なぜか血をマウンドに落としたらダメだと思ったんです。後に投げる投手は、血が残っていたら嫌だろうなと。人工芝まで、なんとか動こうと思ったんです」

 とめどなくあふれる血。白くかすむ視界。右頭部付近が陥没したような感覚。失明するかもしれない。そんな恐怖の中で、小林は神聖なマウンドを血で汚すわけにはいかないと思ったという。投手の本能が、壮絶な状況下でありながら“聖地”を守ることを優先したのだ。

 小林はいま、ブルペン投球ができるまでに回復した。右目の上には痛々しい傷痕が残る。あと数センチずれていたら-と考えると恐ろしくなるような場所と大きさだ。医者からは痕が残らない繊細な糸で縫う方法もあると提案されたが「一番早く治る方法でお願いします」と即答した。一番太い糸で8針縫った。

 「男ですから顔にキズが残ったって困ることない。それより早く治して練習をしたかったんです」

 ケガさえなければ、宮崎で行われているフェニックス・リーグに参加予定だった。福良監督からは来季の先発転向も期待されている。休んでいる暇はないのだ。

 「球数制限があって30球しか投げられない。先発するなら最低でも80球。100球くらいはブルペンで投げないと」

 放っておくとどんどん練習してしまうため、コーチ陣からストップをかけられている。あのマウンドに戻るため、小林はなりふり構わず白球を握る。そのプロ魂に心が震えた。(デイリースポーツ・達野淳司)

関連ニュース

編集者のオススメ記事

オピニオンD最新ニュース

もっとみる

    ランキング

    主要ニュース

    リアルタイムランキング

    写真

    話題の写真ランキング

    注目トピックス