【スポーツ】山本草太の静かな闘い「氷に乗っているだけで楽しい」
フィギュアのグランプリ(GP)シリーズも佳境に入り、平昌五輪をかけた日本代表枠争いも熾烈(しれつ)だ。最終的に12月の全日本選手権が最終選考会となるが、シード権のない選手は出場権をかけてブロック大会から勝ち上がってきている。
今月5日まで行われた西日本選手権には、2015-16年のジュニアGPファイナル銅メダリストで16年ユース五輪金メダリストの山本草太(17)=愛知みずほ大瑞穂高=の姿があった。ショートプログラム(SP)後に「自分の前の選手の時はすごく緊張してやばいと思ったけど、自分の番が来た時にはそういうのも楽しく思えた。体がスーッと動いて楽しく滑れた」と話した。
あのケガがなければ今頃、五輪代表争いの一翼を担っていただろう。16年3月、世界ジュニア選手権への出発前に右足首を骨折。同7月に再び患部を骨折して手術した。同9月にも同箇所を痛め1シーズンを棒に振った。今も患部にはボルトが3本入っている。
復帰戦となった先月の中部選手権ではジャンプはすべて1回転の構成だった。しかし、1カ月後のこの大会ではフリーで3回転-2回転の連続ジャンプなどを決め、合計195・18点で総合5位。全日本選手権への出場を決めた。
骨折を含む3度の負傷からは、華やかなフィギュアスケーターがいかに体を酷使しているかがわかる。伸び盛りのホープが置かれた精神状態も想像を絶する。「今までにない思いをしました。もうできないと思って家族とも話し合った」
その一方で、回復の途中には「氷に乗っているだけで楽しいなと思った。小さい頃はすべて楽しかったから」と振り返った。4回転時代。次々と高難度の技を習得し続けなければ世界とは戦えない。厳しい練習の毎日に忘れていた感情だった。
今も「取りあえず滑るだけなら大丈夫かな」と試行錯誤の毎日だ。それでも、目標だった全日本をかけた試合で見せたのは、まさに人の心を打つ演技だった。SPでは観客から湧き上がるような拍手が起こり、フリーでは全要素でGOE(出来映え点)がついた。フィギュアスケートは言うまでもなく肉体を駆使するスポーツだ。ただ、17歳の静かな闘いに、演技は人の心がつくるものなのだと確信した。(デイリースポーツ・船曳陽子)