【サッカー】地元リールで“鎧”を脱いだハリルホジッチ監督

 11月5日から、欧州遠征を行ったサッカー日本代表。14年のブラジルW杯以降では、初めてとなる欧州遠征で、ハリルジャパンはブラジル代表、ベルギー代表との親善試合を行った。ブラジル戦が行われたリールは、チームを率いるバヒド・ハリルホジッチ監督が自宅を構える場所。代表合宿が始まる前に、一足先にリール入りしていた指揮官が参加した地元メディア向けの会見で垣間見えたのは、日本では見られないハリルホジッチ監督の横顔だった。

 拍手で壇上に迎えられたハリルホジッチ監督は、柔和な表情で一礼すると「ミナサン、コンニチワ」と日本語で第一声を発した。11月3日、リールの官公庁施設「メトロポール・ヨーロピアン・リール」の一室。会見を開いた主たる目的は、同月10日に開かれる日本-ブラジル戦のプロモーション。平日の昼間に開始と、集客が難しい一戦に向けた告知活動の一環だった。

 ハリルホジッチ監督は、1998年からリールの指揮を執り、就任当初は2部リーグに所属していたチームを押し上げ、昇格1年目となった2000-01年シーズンにはリーグ3位に食い込み、翌シーズンには欧州CLの予備予選を勝ち抜いて本選の出場も決めた。そんないわば地元の名士とも言えるハリルホジッチ監督と地元メディアとの質疑応答は、思い出話がメインテーマ。「リールに帰ってきた気分はどうか」、「リールで最後に指揮を執った試合を覚えているか」、「新しいスタジアムについてどう思うか」など。日本での会見と違って、通訳を挟む必要もない。時にはジョークも織り交ぜるなど、会見は終始和やかな雰囲気だった。

 とにかく負けず嫌いで、ことサッカーに関しては、自ら信じる道をまっすぐと突き進む。時には通訳が追いつかないほど、矢継ぎ早に言葉をつなぎ、強い言葉を多用する。日本での会見で抱く指揮官の印象は、こういったところだろうか。心底レベルアップを願っている日本サッカーに対しては、歯に衣着せぬ言動が「Jリーグ軽視」という受け取られ方をすることもある。ただ、この日、ハリルホジッチ監督がリールの人々へと伝えた日本サッカー、日本代表への思いは、印象が違った。

 「日本人選手と一緒に仕事ができることを誇りに思っている」と切り出すと「サッカーに関しては(プロ化してから)30年ほどと歴史は若いが、伝統を重んじる文化で、上下関係もしっかりとしている。ただ、日本人選手に言っているのは、もっとマラン(フランス語でマリーシア、ずる賢さを意味する)になれと。そこは少し頑固な部分があるのかもしれないが。もちろん、規律の部分は素晴らしいものがある。例えば(日本代表監督就任)以前に指揮を執ったチームでは、600馬力のスポーツカーに乗っているのに、練習に遅刻する選手だっていた。私はこのチームにW杯本大会で素晴らしい結果をもたらしたいと思っているんだ」。

 数は多くないながらも日本人のメディアもいたから、多少のリップサービスもあったのだろうか。ただ、会見に同行した代表チームスタッフも「普段は感じない監督の一面、表情でしたね」と驚いた表情を浮かべていた。

 結果がすべての日本代表。異国で仕事を進めていく指揮官には、相応のプレッシャーがかかっている。そんなハリルホジッチ監督が“鎧”を脱いだ表情を、指揮官の地元・リールで見ることができた。(デイリースポーツ・松落大樹)

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