【スポーツ】小川ジュニア ついに見えた世界への道
柔道ファンの皆さん、目を覚ましてください-。そう言わんばかりの強烈なインパクトを与えた。11月に行われた柔道の講道館杯で最も印象に残ったのは、男子100キロ超級で初優勝した21歳の小川雄勢(明大)だった。
1992年バルセロナ五輪銀メダリストの小川直也氏(49)を父に持つホープは、ベテランの七戸龍(九州電力)や若手の太田彪雅(東海大)ら実力者33人が参加したサバイバル戦を勝ち抜いた。
特に圧巻だったのが決勝戦。ロンドン五輪代表の上川大樹(京葉ガス)相手に序盤は劣勢になりながらも粘り続け、2分過ぎに抜群のタイミングで大内刈りに入ると、釣り手と引き手でうまくコントロールしながら背中を畳にたたきつけた。文句のつけようがない見事な「一本」で、大器の覚醒を予感させた。
“柔道王”の遺伝子を持ち、小学生時代から父の指導を受けてきた小川は、190センチ、140キロという恵まれた体格。高校時代に全日本ジュニア王者に輝くなど期待は大きかったが、近年、シニアではなかなか殻を破れなかった。
先月、学生の団体戦でも精彩を欠いていたが、急成長を見せた要因について父・直也氏は「ここ1カ月で大人の力がついてきて、体の力を利用できるようになった。小さい頃から教えてきた点と点が徐々に線になってきた」と説明。上川からの一本勝ちについても「ビックリしたよ。あんな技は初めて見た。俺も思わず拍手していたよ」と目尻を下げていた。
今夏の世界代表を逃し、全日本選手権2連覇中の王子谷剛志(旭化成)らに大きく後れを取っていたものの、この優勝で残り1枠だった12月のグランドスラム東京大会の出場権を獲得。小川は「やっと同じ舞台に立てる。世界に出ている選手を倒して優勝だけを狙う」と声を弾ませた。
小川への期待が高まる背景には、日本男子重量級の“台所事情”にある。リオデジャネイロ五輪で金2つを含む全7階級でメダルを獲得した日本男子だが、井上康生監督の次なる課題は最重量級の復活だ。
男子100キロ超級は唯一、体重の上限がない。したがって、体格の劣る者が巨大な相手に勝つというダイナミックさを体現できる、柔道の花形とも言える階級だ。しかし、近年では五輪、世界選手権を通じて2008年北京五輪の石井慧を最後に金メダルを獲れておらず、絶対王者のテディ・リネール(フランス)に五輪2連覇、世界選手権8連覇を許す状況となっている。
今月モロッコで行われた世界無差別選手権においても、リネールは他を寄せ付けず優勝。日本から出陣した王子谷、影浦心(東海大)の2人は決勝までに敗退し、絶対王者に挑戦することさえできなかった。日本にとっては危機的な状況だが、小川は「誰も世界で勝てていないのは僕にとってチャンス」と逆転の好機と捉えている。
井上監督は「われわれが見ているのは国内(の競争)ではなく世界で勝つこと」とした上で、その挑戦権を得た小川について「近年は結果を出せていなかったが、講道館杯の優勝は自信になったのではないか」と評価。「世界で勝つためにはどうしなければいけないかを考えて、重量級の核になる選手になってほしい」と期待を込めた。
世界選手権を制した直也氏でも届かなかった五輪の金メダルをつかみ取るという、父子2代の夢。3年後に迫った東京五輪に向けて、また楽しみな話題が増えた。(デイリースポーツ・藤川資野)
関連ニュース
編集者のオススメ記事
オピニオンD最新ニュース
もっとみる【野球】浦和実をセンバツ4強に導いた辻川監督の“指導法” 就任38年目で初の大舞台に
【野球】巨人・山崎伊織をよみがえらせた阿部監督の言葉とは? オープン戦不調、2軍戦視察で厳命 見えた強さの理由の一端
【スポーツ】なぜ?青学大・原監督が世界陸上マラソン代表・吉田祐也を国内準高地で強化する理由 “原メソッド”の判断とは
【野球】先輩からの「バカか」で引退を決意 ユーティリティープレーヤーは指導者に
【サッカー】J1首位町田の去年と大きく異なる強さとは 黒田体制3年目-地力の強さでさらなる進化へ
【野球】兄は大人気アイドル 元甲子園球児・田中彗さんが役者に転向したワケ
【野球】日本ハム・吉田 技あり弾呼んだ“もう1本のバット” 4日オリックス・宮城から逆方向に
【野球】消滅した近鉄最後の打者 本拠地最終戦ではサヨナラ打 歴代監督らOBからの「ありがとう」に感動