【スポーツ】ぶつかり稽古とかわいがり、相撲界独自の文化に思うこと
大相撲九州場所(12~26日、福岡国際センター)で若手ホープの新小結阿武咲(阿武松)が苦しんだ。平成以降の初土俵で6位の若年となる21歳3カ月での新三役。全力の挑戦に上位は壁になった。
初日、横綱日馬富士(伊勢ケ浜)をはたき込みで破り、先場所に続く連勝。しかし、2日目の横綱稀勢の里、3日目の大関高安(ともに田子ノ浦)戦は押し込みながら、足を滑らせて敗れた。
その後も、関脇嘉風(尾車)、大関豪栄道(境川)、関脇御嶽海(出羽海)、横綱白鵬(宮城野)と善戦しながら白星を逃し続け、上位戦は6連敗した。
場所前の稽古では30番取った後、延々と続くぶつかり稽古で泥にまみれた。師匠の阿武松親方(元関脇益荒雄)からは「出し切れ!」、「そんなんで勝ち越せるか!」とゲキを飛ばされながら、心身を鍛え上げられた。
破壊力抜群の突き押し、馬力ある突進を磨きに磨いた。言葉通り、「魂の入った相撲」は連日、見せた。それでも星が上がらない。
八角理事長(元横綱北勝海)は立ち合いの当たりの強さを評価。一方で「場所前のぶつかり稽古がまだ足らないということ。よくやっているけど、あれ以上にやらないと。当たった後の送り足は稽古の感覚でしかできない」と、足を滑らせたり、前にはたかれて落ちることは、まだ稽古不足だと指摘した。
阿武松親方が何より重視し、徹底するのがぶつかり稽古。これほどきつい稽古はない。こん身のパワーで何度も胸にぶち当たり、転がされる。頭を押さえつけられ土俵をぐるぐる何周も回らされる。
理事長は「俺は(現役時代、)頭を押さえられて一歩一歩が1勝と思ってやっていた。頭を押さえられるのを嫌がらないで、我慢できるかどうか。頭を押さえられても足が出る稽古をしていれば(引かれたり、はたかれても)手を付かず、残れるようになる。俺は横綱になってもやっていた。何度も転がされているうちに手も付かなくなる」と力説した。
相撲界ではぶつかり稽古は時に「かわいがり」とも呼ばれる。九州場所では横綱日馬富士が幕内貴ノ岩への暴行問題が表面化。暴力を振るった一因に先輩への態度を注意したことなどが挙げられる。
「かわいがり」には先輩が後輩を厳しく指導する意味もある。ただ本来の意味は、上位力士が下位力士が強くなるように猛稽古を付けてやること。土俵内の熱戦と土俵外の事件を取材しながら、相撲界独自の文化を考えさせられる。(デイリースポーツ・荒木 司)