【スポーツ】箱根V4青学大、批判恐れぬ原監督の胆力「悪口言われても1人で戦え」

 正月の風物詩となった箱根駅伝は、今年も往路の視聴率が歴代最高の29・4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)復路も29・7%(同)を記録するなど大きな注目を集めた。今回は出雲駅伝王者の東海大や、全日本大学駅伝王者の神奈川大などによる混戦が予想された中、東京・大手町のゴールテープを切ったのは、やはり王者の青学大だった。

 昨季は3冠を達成するも、今季は出雲駅伝で2位、全日本大学駅伝で3位と優勝から遠ざかっていた青学大。一方で、原晋監督(50)はテレビのバラエティー番組に出演したり、イベントや講演会にも引っ張りだこ。さらに、昨春からは早大大学院でスポーツビジネス論を学ぶなど多忙をきわめ、「テレビばかりに出ていて指導に集中できていないのではないか」という批判の声が少なくなく、総合4連覇に疑問符がついていたのも事実だ。

 しかし、フタを開けてみれば独走でゴールを駆け抜けた。特に圧巻だったのが復路のレース運び。往路こそトップの東洋大に36秒差をつけられ2位となったものの、「想定内」(原監督)。その言葉通り、6区の小野田勇次(3年)が区間賞の走りで逆転し首位に立つと、続く7区は3大駅伝初出場の林奎介(3年)が区間新記録の快走。大きくリードを広げて、8区はWエースの1人、下田裕太(4年)が3年連続区間賞で勝負を決めた。

 例年通り選手層が厚いとはいいつつも、山の神・神野大地、エース一色恭志ら連覇をけん引したスター選手が卒業し、絶対的な存在はいなくなった。不安要素が山積した中で、4連覇を果たした勝因はどこにあったのか。

 1つは「常勝メソッド」の確立だ。今季、多忙で週の半分も練習を見られない時期もあった原監督は、チームスタッフに「過去3連覇したチームの全練習データを洗いだせ」と指示。10人いるマネジャーは、毎年数百ページに及ぶファイルをすべてエクセル入力した。

 数値はウソをつかない。「よく秋季の練習で『走り込め』という指導者がいるが、どれくらい走り込めばいいのか。これでは指導ではない。なので過去のデータに基づいて各自のメニューをつくった」と原監督。

 夏合宿の練習消化率や、競技会のタイムを過去のデータを比較しながら、選手の現状を把握。さらに、選手寮に貼りだすことで、客観的に自身の実力や調子を見ることができるようになった。強いOBが抜けて自信を失っている選手も、「練習データを見れば過去と遜色ない。今年も力がある」と自信を持つことができた。

 監督の不在が長い分、4年が定期的にミーティングを開き課題を共有した。マネジャーも戦う集団と化し、4年の大杉柊平マネジャーは「今年強くても、4年が卒業して崩れるチームは何年も続けて勝てない。代替わりしても組織としてダメにならないように、データを(インターネット上の)クラウドに残して参照できるようにした」と明かした。

 ただ、走るのは数字ではなく人間である限り、データだけでは勝てない。昨年11月の全日本で敗れた後、チームは「データに頼りすぎた」という反省があったという。箱根駅伝を前に「チグハグなチームを私がしっかりまとめて、ハーモニーを奏でる」と宣言していた通り、区間エントリーを含めた采配の妙が光った。

 例えば、これまで3大駅伝への出場経験がなかったにも関わらず、いきなり7区で区間新記録を樹立し大会MVPを獲得した林だ。未知数だった“隠し球”について指揮官は「7区の形状はヤツに合ってるんですよ」と明かし、「夏合宿の消化率や秋練習、ハーフマラソンの成績など、裏付けがあって投入できる」と、してやったりといった表情を見せた。

 日頃、練習やデータを見ている大杉マネジャーも「林はある程度はやってくれるとは思っていたが、あそこまでとは思わなかった。いつもそうだけど、監督の“第六感”はすごい」と驚きの表情。4年間指導を受けた下田も「いつも『攻めた区間エントリーをするな』と思うけど成功している。監督の嗅覚はすごい」と舌を巻いた。

 林だけではなく、2区で区間賞を獲った森田歩希(3年)や、5区で粘りの走りを見せた竹石尚人(2年)も含めて、選手を適材適所に配置する“第六感”が今回も的中した。

 指揮官は「エースだから2区とか、そういう型にはまった考えじゃない。コースの形状に合った選手を選ぶから勝てるんですよ」と力説。その原動力として、選手と寝食を共にする重要性を説き、「やっぱり町田寮という狭い空間で、監督夫婦が共同生活をしているのはうちだけ。生活面を整えて、勝つ陸上のためのデータ管理を採り入れている。通信教育みたいにやってたらできないんですよ」と話した。

 今季は、あらためて「青山オリジナル ベンチャーグリーン」というチームのコンセプトを掲げた。「新しいことにチャレンジする起業家精神が大事」というのが、その意図だという。これまでも「青トレ」や明るいチームづくりなど、前例のない指導方法を取り入れてきたが、今季の常勝メソッドの確立もその1つに加わった。

 原監督の大胆な発言や奔放なキャラクターの裏には、常に旧態依然とした陸上長距離界へのアンチテーゼとしての自負がある。そして、それは一度負けてしまえば説得力を失ってしまうというリスクも背負っている。

 「東洋さんは東洋のメソッドを貫けばいいし、東海は東海のやり方があると思う。そういうノウハウをぶつかり合わせることをしていかないと。『悪口を言われても1人で戦え』と言いたい」

 指導者ごとの特色による“イデオロギー闘争”は、箱根駅伝のみならず、指導方法の硬直化によって近年低迷する日本長距離界の浮上のヒントになるとも原監督は強調した。この胆力こそが青学大の強さの原動力なのだ、と思った2日間だった。(デイリースポーツ・藤川資野)

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