【野球】松坂を獲得した森監督の決断と葛藤
2015年の日本球界復帰後、3年間でわずか1試合の登板に終わっていた前ソフトバンク・松坂大輔投手(37)の中日入団が決定した。5年連続Bクラスに沈むチームの若返りを進めていた森繁和監督(63)の、松坂獲得に至る思いと葛藤に迫る。
昨年12月初旬の都内某所。「松坂、獲るんですか?」。記者の問いに、こわもて指揮官の顔色が変わった。いつもは薄茶色の眼鏡の奥で鋭く光る瞳が、いつになく柔らかみを帯びていた。
「獲ろうとしてる新外国人ピッチャーが、まだ決まってないからな。それが決まらないとな。でも…」
答えを最後まで聞く必要はなかった。ただ、森監督の本当の願いは違っていた。
日米通算164勝右腕も、18年9月には38歳を迎える。決して若くはないし、先が長いとは言えない。自らの意志で海を渡ったとはいえ、古巣・西武でプロ野球人生の最後を飾るべきだろうと、森監督は考えていた。
だが…。
「西武が獲らないって言うんだから、もう俺しかいないだろ。大輔に引退試合をさせてやれるのは」
99年に松坂が西武に入団した際の2軍投手コーチ。腹心の友利編成部国際渉外担当は松坂の兄貴分だった。ソフトバンク退団後の米国自主トレで、投球練習する映像を確認。森監督は決断した。
「若いころのように2桁勝てなんて言わないよ。そりゃ、中5、中6日で回れるっていうなら別だけど。投げて抹消、投げて抹消でもいいじゃん。それで十分戦力になってくれるなら」
唯一の懸念材料は、自らが推し進めてきたチームの若返りに逆行してしまうのでは…という点だった。
「支配下枠の関係もある。育成選手を上げようかというプランもあるし。でも、大輔を見たくてナゴヤドームに帰ってきてくれるファンも少なからずいるかもしれないし。アイツが練習に取り組む姿だったり、今まで経験してきたことを若い選手に伝えてくれれば、よっぽど俺らが伝えるより、説得力があると思うんだよな」
横浜高の後輩で16年度ドラフト1位の柳、15年度ドラフト1位で3年目左腕の小笠原、13年度ドラフト1位で5年目右腕の鈴木翔に、昨秋ドラフト1位指名の鈴木博(ヤマハ)など、伸びしろの大きい若手投手が、松坂の背中、言葉でさらなる飛躍を遂げる。観客動員減少にも歯止めをかける。そんな構図を描くことで、懸念を閉じ込めた。
森監督が開幕前に必ず行うルーティンがある。自軍投手陣の勝ち星を予想し、黒革の手帳に書き込む。かつて、その手帳をのぞき込んだことがある岩瀬は言う。「ホント毎年、誤差がないんですよ。観察力、洞察力、先を見通す力…。ビックリです」。果たして森監督は今季、松坂の欄にどんな数字を書き込むのだろう。(デイリースポーツ・鈴木健一)