【芸能】文豪が芸能人作家に感じていること
ピース・又吉直樹、モデル・押切もえ、SEKAI NO OWARI・Saori。芸能界に主軸を置きながらも、近年、文学界でその名がクローズアップされた面々だ。
周知の通り、又吉は「火花」で2015年上半期の芥川賞を受賞した。押切は「永遠とは違う一日」で16年の山本周五郎賞に、Saoriは「ふたご」で17年下半期の直木賞に、それぞれノミネート。ともに惜しくも落選となったが、押切は受賞した人気作家・湊かなえ氏に次ぐ、僅差の次点だったことが明かされている。
次々と誕生する芸能人作家の存在は、“プロ”の目にはどう映っているのだろうか-。先月、「ふたご」が候補作となっていた直木賞の選考会を取材した際、日本を代表する文豪で、選考委員を務めた伊集院静氏に直接聞くことができた。
「芸能人の作品が文学賞の候補に選ばれる流れとなっていることを、どう感じますか?」という質問に、伊集院氏は「私は文学を高尚という発想はしません」と前置きした上で続けた。「いろんなジャンルの人が我々の世界に入って来ていただき、思う存分仕事していただいて、そのことが我々を切磋琢磨(せっさたくま)させてもらえる。それは非常にいいと思います」。文壇への門戸は、万人に開かれていることを強調した。
「特に若い人ですね。違う世界の人が書いてくることはいいこと。若い編集者と一緒にいいものを作って、提供してくれることを我々は期待してます。プロ野球選手が書いても構わないんですよ。まぁ、あり得ないと思いますが」。軽口も交えながら、“副業”としての執筆活動を支持した。
作家デビューとなったSaoriの才能を評価した伊集院氏は、「ピアノでお好きだった楽曲があると思う。それと同じように、過去の小説に出合い、小説がいかに面白いか気付かれたら、藤崎さんはとんでもない作家に成長するかも」とエールを送った。私小説的である「ふたご」には、一部の選考委員から「事実が書かれている」と指摘もあったといい、「物語でウソ、作り事はキレイに見えるけど、真実を書くとあいまいになって、分かりづらくなる」とアドバイスも授けた。
「ふたご」出版直後だった昨年11月の取材で、Saoriは「サスペンスとか、やったことのないものは無理なので、自分の人生をベースにしました」と解説していただけに、想像力を体験で補ったことが、直木賞を遠ざける一因にもなったようだ。
Saoriは次作の構想を「次は自分から離れて、魔法が使えるとか、そういうのにチャレンジできたら楽しそう」と練っていた。作り事はキレイに見える-。伊集院氏からの“金言”を胸に、書き上げる新作を待ちたい。(デイリースポーツ・丸尾匠)