【スポーツ】小兵・炎鵬、大型化する角界で驚異のスピード出世 小さな体に込めた大きな夢
大相撲で注目の小兵、炎鵬(23)=宮城野=が春場所(3月11日初日、エディオンアリーナ大阪)で新十両昇進を決めた。昨年春場所で初土俵を踏み、所要6場所での新十両は前相撲からのデビューでは、高鉄山(大鳴戸)、土佐豊(時津風)、常幸龍(木瀬)と並んで最速タイ(年6場所制が定着した1958年以降)となる。
スピード出世ももちろん、小兵ぶりが際立つ。身長167センチ、体重92キロ。100キロ未満の新十両は01年初場所、99キロの小緑(阿武松)以来17年ぶり。92キロは1991年春場所、新十両昇進時の舞の海(身長は174センチ)と同じ。当時よりはるかに大型化する角界で、このサイズで関取に到達するなど驚異的だ。
「うれしい。信じられない。まさかこんなに早くとは」と本人が一番、ビックリ。昇進を知らされたのが風呂から出た時だったそうで、「『上がった』って言われ風呂から上がったってことかなと思った」と笑わせた。
石川県金沢市出身。兄に影響され5歳で相撲を始めた。金沢市立西南部中時代は現幕内の輝(高田川)と同期。金沢東高3年時に世界ジュニアの軽量級で優勝。金沢学院大に進学し2、3年時に世界相撲選手権の軽量級を2年連続で制した。
昨年、横綱白鵬の目に止まりスカウトされた。両親は反対したが「小さい頃から相撲しかなかった」と、プロに挑戦したい気持ちが勝った。それから1年、横綱の“内弟子”としてトレーニングを共にし、角界頂点のオーラを吸収し続けたことが成長につながった。
序ノ口、序二段、三段目まで21連勝し、3場所連続で全勝優勝。幕下2場所目、東幕下6枚目で4勝3敗だったが、十両からの降下が多数だったため昇進した。幕下6枚目以下で昇進は珍しいが、くしくも白鵬も03年九州場所、東幕下9枚目で6勝1敗とし新十両を決めている。運の太さも横綱譲りだ。
小兵といえば、現在の角界では兄弟子の石浦を始め、宇良(木瀬)、照強(伊勢ケ浜)が土俵を沸かせる。しかし、炎鵬はまだ彼らより小さいのだ。
白鵬が見抜いた身体能力の高さがどこまで通用するかは楽しみ。師匠の宮城野親方(元前頭竹葉山)は「前に出る相撲をやっている。押す力が強い。体幹が強いんでしょう。智ノ花みたいに中に入って投げを打ってね。智ノ花くらい三役に上がって欲しい」と期待。
本人もまだ伸びしろに自信を持つ。「この体は親からもらった生まれ持ったもの。この体でどう戦うか、自分の中でまだまだ磨くところがある」。
ひねり技を得意とし愛称は「ひねり王子」。小兵として兄弟子の石浦、宇良を意識する。「個性を出しておもしろい相撲を取りたい。理想は石浦関と宇良関を混ぜた相撲。前に出ても中に入っても取れる」と力を込めた。
白鵬から入門前にもらった言葉は「人生1度だから親孝行をしなさい」というもの。「育ててくれた両親に恩返しをしたい。住みやすい家を建ててあげられたらな」。小さい体に込めた大きな夢をかなえる。(デイリースポーツ・荒木 司)