【スポーツ】小平奈緒 「銀メダル、触ってみませんか」バンクーバー五輪後に語っていた思い
「銀メダル、触ってみませんか?」-。
バンクーバー五輪を取材した8年前のこと。スピードスケート女子団体追い抜きで、日本女子は銀メダルを獲得した。そのメダルセレモニーを終えたミックスゾーンだった。初めてのメダルを獲得した小平奈緒が、取材を進めるうちに発した言葉だった。
銀メダル。自宅に大事にしまったり、所属先で厳重に展示されたり、そんなイメージだ。それを軽々しく、他人に触らせていいものか。恐れ多い思いすらあった。躊躇(ちゅうちょ)していたら「色んな人に、触ってもらいたいんです」と明かした。
その意図を、目を輝かせながら説明した。「触ってもらうことで、いろいろな人に勇気や力を与えられれば。病院に持っていって患者さんにも触ってもらいたいですね」。少し遠慮がちに触らせていただいたメダルの、ずっしり重い感触。まだ手のひらに残っている。そして言葉通り、帰国後には所属の相沢病院で、メダルを手に病室を回った。
メダルを触ってもらう意図はもう一つあった。当時、メダルセレモニー後に行われた会見では、こう話していた。「将来、五輪を目指す子どもたちに、夢とか希望とかを与えられたと思うので、そういう子たちにもこの銀メダルを見せてあげたいなと思います」。
小平自身、長野五輪の清水、岡崎に触発されて五輪を目指した。子どもたちにメダルに触れてもらうことで、同じように明確な目標を持ってもらいたい思いがあった。さらには将来的な底辺拡大、競技活性化へ少しでも寄与したい思いも。バンクーバー五輪前に所属先が決まらず、苦労したこともあったからだ。
女子1000メートルで銀メダル。そして女子500メートルで金メダルを獲得した平昌五輪。新たに増えた2つのメダルも、色んな人の手に触れられるだろう。勇気や力を、夢と希望を与え、そのたびに、メダルはその輝きを増すはずだ。(デイリースポーツ・鈴木創太)