【野球】異国の地で熱血指導続ける元鯉戦士・正田耕三

 体が引き締まっている。日焼けした顔。見た目は20年以上前の現役時代と、あまり変わっていないようにも思える。

 「ウエートトレーニングしてるから、今は脱いだらすごい体してるよ。韓国にいるときはやることないし。遠征先のホテルのジムでもウエートしてる」

 そう言って白い歯を見せた正田耕三氏。今年1月2日で56歳になった。87、88年にセ・リーグの首位打者を獲得。89年には盗塁王にも輝いた。80年代後半から90年代、広島機動力野球の申し子のような選手だった。

 現役引退後は広島、近鉄、阪神、オリックスでコーチを務めた。今は韓国・KIAタイガースの1軍打撃コーチとして熱血指導を続けている。

 KIAの金杞泰(キム・キテ)監督は、かつて巨人のファームでコーチを務めたこともある。そのとき巨人スタッフの一員だった内田順三氏、伊勢孝夫氏の打撃理論に触れた。

 「監督はオレが広島で教えてもらった内田さん、伊勢さんと一緒にやってたから、打撃理論の話が合う」と正田氏。確かな信頼関係のもと、ともに日本で得た知識をKIAの選手たちに伝えている。

 「よく食べるし、体がごつい」という韓国選手。ただ、子供のころから強い打球を打つ、速い球を投げる、という指導は受けてきたが、肘、膝の使い方など細かい動きについては修正が必要な選手も多いという。時にはその練習の目的、意味などを選手に説明し、納得させてから練習を始めることもある。韓国語は「日常会話ならだいたい分かる」というレベルで、なるべく通訳を介さず、選手には直接自分の言葉で伝えるようにしている。

 かつての広島は徹底した猛練習で球界トップクラスの名選手を何人も育て上げた。正田氏もその一人。手のひらの皮がベロンとめくれるほどバットを振り込み、右打ちからスイッチヒッターへの道を切り開いた。正田氏が指導する上で、広島野球が礎にあることは間違いない。しかし「オレがやってたような練習を今の選手にやらせたらつぶれてしまう」と、そのまま実践することはない。

 「この教え方で良かったかな、とかいつも考えてる。野球は年々変わってきてるからね。練習の仕方も変わってきてる」。キム・キテ監督もそのあたりのことは認識している。

 日本のプロ野球キャンプは4勤1休が多い。しかしKIAは3勤1休が基本。昨年のキャンプでは日本ではありえない2連休もあったという。シーズン中には夏場に試合前練習を回避することもある。「雨は選手の味方」が監督の口癖で、雨天時は練習が休みになることも。それでもシーズン優勝を果たし、韓国シリーズも制した。

 「100本のティー打撃をダラダラやるより、10本を集中して考えながらやる。そうすれば時間も短縮できるし、選手のためにもなる」と正田氏。実際にKIAが結果を出したことで、他の韓国チームの練習の様子も変わりつつあるという。

 いつかはまた日本で…の思いがないわけではない。「今は選手が育ってきておもしろいときやから」。かつて近鉄、阪神のリーグ優勝に貢献したコーチとしての手腕は、異国の地でさらに進化している。(デイリースポーツ・岩田卓士)

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