【サッカー】2度の靱帯断裂から復帰した天才肌のMF…吉野峻光が28歳で現役引退
J1C大阪や甲府でプレーしたMF吉野峻光(28)=タイ・コンケーンFC=が現役を引退した。J2京都の下部組織から静岡学園高、国士舘大を経て12年にC大阪に入団。今季からJ1G大阪の指揮を執るレビー・クルピ元監督も、C大阪監督当時にその能力を高く評価していた。
だが、悪夢が吉野を襲った。プロ1年目の12年11月に練習試合で左膝前十字靱帯を断裂し、全治7カ月の重傷を負った。ようやく負傷が癒え、全体練習に合流したばかりの13年7月に再び左膝前十字靱帯を断裂。今度は全治8カ月と診断された。
失意の吉野を励まそうと、同年8月のアウェー大宮戦ではDF新井場の発案でベンチに吉野のユニホームが持ち込まれた。先制ゴールを挙げた同学年のFW柿谷はベンチに走り、背番号15のユニホームをスタンドに向けて掲げた。試合後には選手全員が吉野のユニホームを着てサポーターの前で記念撮影。その写真は今も吉野のツイッターのカバー画像となっている。1週間後のホーム清水戦では吉野本人も写真に収まり、「日本中の誰よりも厳しくリハビリを頑張ります」とホームのサポーターに誓った。
誰もいなくなった練習場で、黙々と地道なリハビリに汗を流す姿は忘れられない。2度目の靱帯断裂の後には、験を担いでスパイクの契約メーカーも変えた。気の遠くなるようなリハビリの日々を耐え抜き、14年8月のアウェー川崎戦で約1年9カ月ぶりの公式戦復帰を果たした姿は、多くのC大阪サポーターの胸を打った。C大阪に4年間在籍後、16年に甲府へ完全移籍。17年にはタイ・コンケーンFCでプレーしていた。
3月11日に自身のツイッターで現役引退を表明。「6年間あっとゆう間でした。苦しいこともたくさんありましたが、応援してくれる方達のおかげで常に前を向いてプレーすることができました。ありがとう」と感謝を込めてつづった。今後については「幸せなことにサッカーに関わる仕事をします」とし、続けて「セレッソで共にプレーした新井場さんの元で、育成年代の選手の発掘や、指導に携わっていきたいと思います」と明かした。
J1通算14試合無得点、J2通算17試合無得点。独特のリズムを刻むドリブルは幾度となく観客の胸を躍らせた。苦しい時間を長く過ごしたにもかかわらず笑顔が印象的な選手だった。サポーターから愛された天才肌のMFが、28歳の若さで静かにスパイクを脱いだ。第2の人生が幸せであふれていることを心から願いたい。(デイリースポーツ・山本直弘)