【野球】センバツ21世紀枠は必要か…経験者が語る思いとは?

 第90回記念選抜高校野球大会が23日に開幕した。01年に新設された21世紀枠は18年目を迎え、今年も由利工、膳所、伊万里が出場する。困難克服など成績以外も加味する21世紀枠は、センバツの歴史を彩ってきた一方で、選出校の戦績から存在意義に賛否両論もある。導入1年目の01年に選出され、4強へ進出した宜野座(沖縄)の主将だった安富勇人さん(34)=現那覇工部長=が、当時を振り返りながら21世紀枠への思いを語った。

  ◇  ◇

 17年前の春。宜野座が聖地に旋風を巻き起こした。21世紀枠の初代選出校として春夏通して甲子園に初出場。人口5千人の宜野座村で唯一の高校が、4強へ進出する快進撃を見せた。主将だった安富さんは、懐かしそうに当時を振り返った。

 「楽しかった。それだけです。だから、あの結果があると思う」

 部員は8割が宜野座村、2割が近隣の出身。飛び抜けた実力を持つ選手はいなかった。グラウンドは他の部活と共用している普通の公立校だった。

 「田舎っぺの集まり」と振り返るチームは、奥浜監督の方針で徹底してバントを磨いた。スモールベースボールを確立し、秋季沖縄大会で優勝。九州大会も8強へ進んだ。九州の一般選考枠は4。当確ラインには及ばなかったが、環境や地域との密着を評価され、安積(福島)とともに21世紀枠に選ばれた。

 センバツでは比嘉投手が落差の大きい「宜野座カーブ」を武器に好投を続けて4強進出。多角的に出場校を選ぶ大会の特性を生かした21世紀枠は、順調な船出を見せた。

 だが、近年は同枠の選出校が低迷している。秋季都道府県大会16強以上(加盟校が129校以上の都道府県はベスト32以上)が対象となるが、一般選考の高校と比較すると、実力が劣るケースが多い。これまで出場した45校で、初戦を突破できたのは13校だけだ。

 安富さんも21世紀枠に、賛否両論があることは理解している。それでも心から存続を願う。4強という結果が出たからではない。経験したからこそ分かった尊さがあるからだ。

 「過去に21世紀枠で出た人が『大敗して野球が嫌いになった』とか、否定的な意見を持っているなら考えるべきだと思う。でも、大敗して野球や甲子園が嫌になったりすることは、全くないと思うんです。まずあんな経験はできない。僕は貴重な経験をさせてもらって、感謝だけでした」

 勝敗以上に、得た経験が貴重だった。両親、指導者、地元の人、ファン、甲子園のスタッフ…。大会中は支えてくれる人のありがたさを、実感することばかりだった。

 忘れられない出来事がある。準決勝で仙台育英(宮城)に敗れ、三塁ベンチからバックネットの前を通り、一塁ベンチ横の通路へ向かう時だった。「ようやった!泣くな!!」という声が相次いだ。

 「見ず知らずの方が、何でこんな声をかけてくれるんだろうって。運営の方のサポートもあったし、帰った後の地元の盛り上がりも経験した。これが高校野球、甲子園のすごさなのかって。開幕前の取材では、見栄を張って『感謝の気持ちを持って』とか言っていたけど、『それって何?』って聞かれると答えられなかったと思う。でも、自然と理解できるようになりました」 センバツは夏の甲子園のように、予選を勝ち抜いて出場する大会ではない。安富さんは選ばれた高校が出場する大会だからこそ、特色を失ってほしくないという。「みんな強くなりたいと思ってやっている中で、いろんな評価のされ方はあっていいと思うんです。出場校を『選ぶ』大会だからこそ、成績が少し足りなくても頑張っている学校を選ぶことは、意味があると思います。普通の高校にも甲子園で学ばせてくれる21世紀枠は、ありがたい存在だと思いますよ」。胸を張って、堂々とプレーを-。それが、安富さんの後輩への願いだ。(デイリースポーツ・西岡 誠)

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