【競馬】豪州で奮闘中の坂井瑠星騎手 ドバイで感じた確かな成長
精悍(せいかん)な顔つきに確かな成長を感じた。オーストラリアで武者修行中の坂井瑠星騎手(20)=栗東・矢作芳人厩舎=が先月26日に、ドバイターフに出走するリアルスティールの調教を手伝うためにドバイ入り。偶然、空港で遭遇した私にも、気持ち良くあいさつをしてくれた。
「おはようございます。今からSIMカード買って、お金を(現地のものに)替えてホテルに向かいます」
環境の変化に全く戸惑うこともなく、堂々とした立ち居振る舞い。初めての中東で、不安から右往左往していた私とは対照的だった。
ドバイで師匠の矢作調教師にこの話を伝えたところ、「1月に瑠星のところに行った時は、そんな堂々という感じはなかったな。正直、舐(な)めてると思ったくらいだから」と厳しい表情で振り返っていた。英語が話せないことによるコミュニケーション不足を含め、競馬はもちろん、日常生活にも「覚悟を感じなかった」と師は一刀両断にする。チャンスをつかむ、つかめない以前の問題だった。
事実、周囲もそれを察してか、2月に入ると全く競馬に乗せてもらえない日々が続いた。体調に問題はないにもかかわらず、調教と語学学校を往復するだけの日々。正直、心が折れそうなほどだったという。しかし、そこから目の色が変わった。英語もみるみるうちに上達し、競馬や日常生活で困ることは減っていった。すると、少しずつ何かが動き始めた。
結果を出すべく、自ら求めて環境も変えた。それまで騎乗していたメルボルン地区から、アデレード地区へ拠点を変更。豪州遠征開始から約4カ月が過ぎた3月10日にペノン競馬場で待望の初勝利を挙げた。以降は勝ち星を積み重ね、同24日には、G1も開催されるアデレードで一番大きいモーフェットヴィル競馬場でも勝利を収めた。
「ようやく、これからだと思っています」。そう話す坂井Jの瞳には、日本出国前に意気込みを聞いた時より、確かな手応えが感じられた。この写真は、リアルスティールが参戦したドバイターフ直前のパドックで撮らせてもらったもの。「いつか、こんな舞台で乗れるようにしたい」。そのためにも、歩みを止めるつもりはない。
師は3着同着に終わったターフの後、バルザローナの騎乗ぶりを「ほぼ指示通りに乗ってくれた。手前の出し方が難しい馬だけど、しっかり変えてくれた。あのあたりはさすが。うちの瑠星より少しうまいね」と、独特なスパイスの効いた表現でたたえていた。ことあるごとに弟子の名前を出すのは、誰かの目に留まれば、新たなチャンスにつながるかもという“親心”。飛躍を望んでいるのは、決して本人だけではない。
レース翌日。現地時間4月1日から、2日に日付が変わろうとしていた深夜。坂井Jは休む間もなく、既にドバイ国際空港にいた。
「これから、オーストラリアに戻ります。まだ未定なんですが、しばらくはアデレードで乗ることになると思いますね」
もっと、うまくなりたい-。その一心で、時間を惜しんで世界中を飛び回る。支えてくれる人たちの思いにも背中を押され、次に会う時には、さらにたくましく進化した姿を見せてくれるはずだ。私はそう確信している。(デイリースポーツ・大西修平)