【サッカー】再来日を決めたハリルホジッチ氏の実直すぎる人柄 会見で一体何を語る

 サッカー前日本代表監督のバヒド・ハリルホジッチ氏が21日、羽田空港着の航空機で再来日した。W杯まで残り2カ月というタイミングで電撃解任された指揮官は、27日に都内で開かれる記者会見に出席。思いの丈を話すと見られる。

 「プライド」という言葉を、辞書で引いてみた。日本の学校教育の中で育ち、今は新聞社で勤めている自分のイメージでは「誇り」や「譲れないもの」、「自尊心」といった意味合いの言葉だ。だが「誇り」「自尊心」といったイメージ通りの言葉と共に「驕(おご)り」「うぬぼれ」というネガティブなイメージを伴うワードも並んでいた。

 何を話すのか。大きな注目を集めている、ハリルホジッチ前監督。日本協会の田嶋会長は「選手との信頼関係の薄らぎ、コミュニケーション不足など、総合的に判断した」と解任理由を公式の場で説明した。ただ、ハリル氏はその説明に納得していない。契約解除に伴って残りの契約日数に応じて、支払われる給与などが記された説明書類の受け取りを拒否。失意と怒りを抱いて、21日に羽田空港に降り立った。

 「真実を探しに来た」とハリルは言う。だけど、おそらくその「真実」は見つからないと思う。端的に言えば最終的な決断は田嶋会長の独断だったが、細かく調べれば調べるほど、その経緯は複雑で、残念なほどピッチ上でのパフォーマンスとは別の多くの力が働いていたと感じる。「総合的に判断した」という田嶋会長のコメントの中にある「総合的」という言葉がはらむ闇は、分かっているだけでも深い。

 この状況下で会見を開いたとしても、ハリルホジッチ氏は何を言っても“敗軍の将”だろう。再来日の際、就任以来の関係だった樋渡通訳は無念さを直に感じただけに、フランス語を日本語に訳す際に涙ぐんだ。そんな姿にもらい泣きしたハリルに、自分もさらなる“もらい泣き”泣きをしそうだった。でも、会見を経て契約解除がひっくり返るようなことは起きないだろう。むしろ、言い訳という言葉に集約され、イメージの低下が待っているだろうとも思う。

 それでも、直接言葉が通じない日本で会見をするのは、実直すぎる人柄だろう。W杯に向けて、フランス国内で、ハリルホジッチ氏をよく知るという人物の数人に話を聞いていた。どこの監督をしていても、「サッカーに対してとてもまじめで厳しい」「チームを本気で強くしようとしてくれた」という声と共に、最後の別れはクラブや国のトップと折り合いが付かなかったという話のオチがほとんどだった。

 昨年、自宅のあるリールで複数の記者と共にハリルホジッチ氏と食事を共にする機会があった。「この場ではサッカーの話はしないぞ」と自ら言ったにもかかわらず、2分後には日本サッカーの話をしていた。会見と同じように、日常生活でもハリルはよくしゃべる。でも、ふとした瞬間、言葉を止めてわれわれに尋ねた。

 「私は、日本でどう思われているのだろうか」

 わずかな沈黙があったので、答えた。

 「仕事に対してまじめで厳しい。だけど、Jリーグや日本サッカーのダメな部分を言うことを、良く思わない人も多いと思う」

 自分が発した返答にハリルは明らかにがっかりしていた。だが「でも、」と切り返し、こういった。「私は日本が好きで、日本人を友人と思っている。もし友人に、ここがダメだから、もっとこうしたら良いと思ったことを正直に言わなかったら、それは友人とは言わないだろう?」

 旧ユーゴスラビアのジャブラニカという街で生まれ、現役引退後は紛争によって運命を揺り動かされた。選手時代に築いた形ある財産は焼かれ、指導者としてスタートするまでの道のりも平たんではなかった。そんなバックボーンが、信頼する人にはとことん本音で付き合うが、外部に対しては隙を見せないようなハリルホジッチを作っていたのではないか。

 W杯アジア最終予選。初戦のホームUAE戦で負けたことで、試合の度に常に解任論がついて回った。派手な見出しで去就が報じられる度に「私への攻撃だ」と、徹底抗戦への構えを固めた。

 17年8月31日。かつてW杯予選で勝ったことのないオーストラリアを、出色の戦いで破った夜。ハリルは歓喜の埼玉スタジアムの片隅、ホーム側のベンチで一人、涙を流していた。日本にとっては、6大会連続でのW杯切符。モスタルという街で過ごした青年時代、生活全般をサポートした義理の姉が重病に見舞われていたという緊急事態もあった。決して外部には吐露できない重圧から解放された瞬間だった。

 だが、祝福ムードの空気を切り裂くようにハリルは代表スタッフに告げた。「記者会見にはいかない」。それは、外部から代表チームに疑問を投げかけ続ける日本メディアへの反抗だったと思う。数回の押し問答の末、ハリルは会見場に向かったが「二言で切り上げる」と言った。だが、そんな思いで足を踏み入れた会見場では、ハリルが“敵”だと思っていた日本メディアがスタンディングオベーションで待ち構えていた。「二言」だったはずの会見。ハリルは千倍以上の言葉を発していた。

 就任から3年、偏屈で頑固なイメージは変わらないが、取材を通じて、随所にバヒド・ハリルホジッチという人間を感じる機会を得てきた。今回の再来日を機に、関係者を通じてコンタクトを取ったが「信頼しているが、フェアにいきたいので、27日の会見までは(話せない)」と言われた。相変わらずの実直ぶりだった。

 話を記事の最初に戻したい。「プライド」の意味を引いた辞書には、ポジティブに感じる意味も、ネガティブに感じる意味もどちらもが混在していた。ハリルホジッチ氏は、羽田空港に降り立った際に「私の誇りを傷つけるようなところは戦わないといけない」と話した。それは「誇り」なのか、「思い上がり」なのか。どの立ち位置から見るかで、とらえ方は変わる。安易な二元論では結論を出せないからこそ、自分は耳を傾けたくなる。(デイリースポーツ・松落大樹)

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