【野球】阪神・藤浪が藤浪であるために 復活目指し6年目の苦闘

 阪神の藤浪晋太郎投手(24)が、8日のウエスタン・オリックス戦(大阪シティ信用金庫スタジアム)で、7回を投げて5安打無失点と好投した。4月20日の巨人戦(甲子園)以来、2軍降格後初となった実戦登板。早いテンポの投球、9奪三振に復調の兆しを予感させた。

 「全体的にカウント優位に進められました。しっかりブルペンなどでやってきたことを、試合で出せたことがよかったと思います」

 今季は開幕からローテーション入りしたが、4度の先発で0勝1敗、防御率5・40。21回2/3を投げて16四球、3暴投と制球に苦しんでいた。20日の巨人戦では、10奪三振を奪いながら6四球。昨年も同様に5月下旬の抹消後、約3カ月の2軍暮らしが続いていた。

 18日ぶりの実戦登板では、テンポよく制球を意識した投球。本人は「大きく何かを変えたわけじゃないですけど」と話したが、1球ごとの間隔やカットボール、スライダー、ツーシーム、フォークと変化球も織り交ぜる投球には変化が見て取れた。矢野2軍監督も「内容もテンポもよかった」とした上で、こんなエールを送った。

 「誰よりもあいつ自身が一番、変わりたいと思ってやっている。俺も投手コーチもみんな、手助けできることはしていきたい。ただ、あいつ自身が乗り越えていかないといけないことだから。今日みたいな内容を続けていけば、いつでも(1軍に)行ける形になる」

 思えば今春のキャンプ中、金本監督も同じような言葉を残している。「支えてあげると言うとオーバーですが、できることは何でも協力してあげたい。彼の野球人生にプラスになるようなことは、何でもやってやろうかなという思いでいます」。

 再昇格について指揮官は「何回か投げて確信を持てないと」と話している。先発投手は1人でも欲しいのが実情。それでも早期の1軍復帰について慎重な姿勢は、藤浪のこれから続く長い野球人生を考えてのことだ。

 振り返れば20日の巨人戦。降板する右腕にスタンドからは、厳しいヤジと共に、多くの拍手も注がれた。表現方法は違っても、どちらも「藤浪、頑張れ」-の思いを感じさせた。松坂大輔(中日)の復活星に湧く日本球界。平成の怪物が甲子園球場を席巻した14年後、同じく春夏連覇を達成したのが藤浪擁する大阪桐蔭だった。

 素質、素材を疑うはずもない。藤浪を見ると、頭の中にいつもある曲が流れる。尾崎豊の名曲「僕が僕であるために」。藤浪は今季も、Mr.Childrenの桜井がカバーする同曲を投手用の登場曲にする。もがき、苦しみ、光を見つけたプロ5年目。6年目の今季も苦しみながら、一歩、一歩、前に向かっているのは確かだ。

 今後は2軍でローテーションを守りながら、結果を残し続けて再昇格を待つ。苦しんだ昨季シーズン中に聞いた、父・晋さんの言葉を思い出す。「決して順風満帆な野球人生じゃないんですよ」。甲子園を春夏制した大エースも、つまづき、悩みながら階段を駆け上がってきたのだ。

 ただ、人は期待する。その姿に夢を乗せ、思いを託す。それは特別な存在で、一握りの限られた者しか与えられない使命なのだろう。藤浪が藤浪であるために、勝ち続けなければならない。(デイリースポーツ・田中政行)

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