【野球】阪神・秋山、ブレークから1年 さらなる進化を求めて
先発で八回を投げ終えた阪神・秋山のもとに、金本監督、香田投手コーチが歩み寄った。5月8日の巨人戦(東京ドーム。ここまで無失点投球を続けた“主役”に、九回続投の決断は委ねられた。「どうする?」。「行かせて下さい」。即答ではない。当然、疲労もピークに達していた。それでもマウンドに上がった。求めていた「信頼」を感じた瞬間でもあった。
12勝6敗、防御率2・99。チーム勝ち頭で一気にブレークした昨年。同じく1軍に抜てきされた桑原と2人、「とりあえずお互いに、4月を乗り切ろう」と声を掛け合ってのスタートだった。1球、1勝ごとにコツコツと結果を積み重ねた1年。大幅昇給を勝ち取ったオフの契約更改後、会見でこんな言葉を口にしている。
「もっと監督に信頼してもらいたい、と思っています。一番は投球回数。180イニングを目標にしたい」
昨年は計159回1/3を投げた。1試合平均は6・4回。接戦の展開だけではなく、安全圏のリードで継投に出る試合もあった。実質、ローテーションで回った1年目。「想像以上」と振り返る一方で、今後に必要なものも見えていた。
180イニング投げるためには、昨季の25試合登板に当てはめると、単純計算で1試合平均7・2回以上がノルマになる。また9月の失速を反省に、1年間投げ抜く体力に加えて「直球の質を上げていかないといけない」とも話していた。
さらなる「伸びしろ」を求めて、オフは最新鋭のスポーツ科学施設に赴き、一から体を分析し、見つめ直した。秋季キャンプでは、下半身主導のフォーム改造に着手。曲がりを大きくした120キロ台のスライダー、フォークの完全取得にも励んだ。カーブの握り方も変え、人さし指を縫い目にかけるように折り曲げ、ボールが離れる瞬間に強いスピンをかける「パワーカーブ」も習得。変化を恐れなかった。
共同通信デジタルのデータで見れば、被打率・262は規定投球回をクリアした投手の中で、ブキャナン(ヤクルト=・266)に次ぐリーグワースト2位。特に右打者には・288と打たれた。だが、今季はここまで同・254。カーブに限れば1本の安打しか許していない。数字に確かな成長が表れている。
それでもシーズン序盤は、1勝3敗と黒星が先行した。いずれも3失点以内に抑えているが、なかなか勝ち星に恵まれなかった。「まだ真っすぐがしっくりこない」と試行錯誤の日々が続いた。きっかけになったのは1日のDeNA戦(甲子園)。4月24日のヤクルト戦(松山)が雨天中止になった段階で、首脳陣はローテーションを再編。秋山の登板間隔と中9日と空けただけでなく、大事な週頭の火曜日を託した。9回1失点で完投勝利した試合後、秋山はこう振り返っている。
「登板間隔が空いた時間の中でストレートを修正して、少しずついい形が見えてきました。試合の中で自信を取り戻しながら、軸として使えるようになった。修正はフォーム的なものですね」
ここまで6試合の登板で3勝3敗、防御率2・14。1試合平均7回を投げる計算となる。先発ではエース・メッセンジャーに次ぐ存在で、いまや欠かせぬ大黒柱になった。今後続く6連戦。“火曜日”の男が、チーム浮沈のカギを握るはずだ。(デイリースポーツ・田中政行)