【スポーツ】最低の指導者と最高の指導者 納得がいかない「乖離」という説明
6日に行われたアメリカンフットボールの関学大と日大との定期戦で、日大の選手の悪質な反則行為により関学大の選手が負傷した問題が大きな波紋を広げている。日大は関学大への回答で「指導者による指導と選手の受け取り方に乖離(かいり)が起きていたことが問題の本質と認識」として、内田正人監督による指示を否定した。反則が起こった真相は何なのか。デイリースポーツ編集局で元関学大アメリカンフットボール部QBの藤吉裕久(43)が語る。
◇ ◇
「乖離が起きた」という回答では、当然納得がいかない。アメフットの試合中なんて乖離が起きうる“暴言”だらけなんだから言い訳にしか聞こえない。
アメフットは高校でも特に盛んというわけでもなく、関学には未経験者や運動神経のそれほど高くない、いわゆる“どんくさい者”も入部してくる。会見を行った両氏はそれぞれ40年、20年以上指導してきた目を持っている。故意であるか、ないのかは、見れば一目瞭然なはずである。
経験者があのプレーを見て疑問に思う点は、普通はQBがボールを投げると、ディフェンスは一瞬動きが止まり投げられたボールの方向を見るか、その方向へ走っていく。しかし、投げたのが見えているはずなのに、ためらいもなくタックルにいっている姿は明らかに異様な光景だ。
「レイトヒット」。今回の騒動となっている反則名。プレーが終了している相手へ攻撃する行為。1試合に1回あるかないかの極めて少ない反則。あったとしても勢い余った選手が、自らブレーキをかけているにもかかわらず相手に突進してしまう。犯してしまった選手は、敵味方どちらに対してもバツが悪そうに反省している姿が思い浮かぶ。
自分のチームがQBにタックルをして負傷退場に追い込んだとしよう。当然、攻撃陣の司令塔がいなくなるので相手は片方の翼がなくなった戦闘機の如く戦力ダウンする。負傷に追いやった選手はベンチで讃えられる。「不謹慎だ」と言う人もいるだろうが、男と男のガチ勝負。勝ち負けにどん欲にやっている本人たちからしてみれば当然のことなのだ。ただし、ルール上で問題がなければの話である。
もし今回と同じ事を関学が犯してしまった場合どうなっていたと多くの人に質問された。あくまで想像だが、監督、コーチが注意する前に、試合に出ていない4年生、同じポジションの下級生から“しばかれる”。そして今後の試合には一切出ることはない。いかなる場合でも暴力行為は決して許されることではないと教えられているから。
大雨の日の練習だったことだけは覚えている。ある控え選手が、足元が悪く止まりきれずにレイトヒットでレギュラーを捻挫させてしまった。練習の後片付けをして更衣室に戻ってくると、廊下の片隅で大男が泥々のまま着替えもせずにすすり泣いていた。そう、ケガをさせてしまった選手が自責の念にかられ泣いているのである。アメフットはケガをする恐怖もあると同時に、ケガをさせてしまう恐怖もあるのだ。当然、誰一人として彼を責めない。真剣にやった上での“事故”と分かっているから。
日大は故意だと認めない。謝罪もしない。一番情けないのは、監督が出てこないこと。今回、会見した関学の鳥内監督、小野ディレクターは怒るとめちゃくちゃ怖い。身を持って体験した。でも、負けシーズンになってしまったときは「全部自分の責任」と毎年、メディアにコメントした。だから選手でいたときは勝たせてあげられなかったことでみんな心が痛かった。
ケガをしたときも鳥内監督の愛車に乗って、病院に連れていってもらったことも思い出す。オフェンスのプレーで失敗したとき、小野ディレクターはまず自分のプレーコールが悪いと言った。
そういう人たちの下でやらせてもらっているので選手は命を懸けて敵に突っ込んでいく。勝敗にどん欲になる。両氏は怒りがこみ上げているにもかかわらず冷静に受け答えをし、憎いはずの危害を加えた選手をもかばった。指導者はこうあるべきだとは言わない。しかし私は改めて、最高の指導者の下で学生生活が過ごせたことを誇りに思った。