【野球】難病克服の日本ハム・岩下打撃投手 裏方でも「一球入魂」の人生
今では病気の影すら見当たらない。日本ハム・岩下修一打撃投手(44)。17年前に急性骨髄性白血病を患いながら、驚異的な回復力で現役復帰。引退後もユニホームに袖を通し、グラウンドに立ち続けている。
「退院してからは、血液の異常も全くなかった。今は普通の人と全く変わりのない生活。もう何年前になるかな。病院に来なくていいと言われたしね」。
かつては治療困難とされていた白血病。今なお命に関わる深刻な病気であることに変わりはないが、医学の進歩で治療成績は着実に向上している。私にも白血病を患った家族がいるが、岩下打撃投手のような存在は同じ病と闘う人々にとって希望の光だ。
岩下打撃投手はオリックスで現役選手だった01年、白血病を患い、神戸市内の病院に入院した。風邪のような症状に加え、歯茎からの出血、目の充血もひどかったという。
約4カ月、過酷な抗がん剤治療を経験したが、「すぐに病院を出て野球がしたい」という一心で病室でもトレーニングに励み、翌年の開幕戦で復帰登板を果たした。06年に引退するまで、左の中継ぎとして98試合に登板。3勝0敗、防御率4・57の成績を残した。
白血病の治療法は化学療法や骨髄移植などさまざま。岩下打撃投手は抗がん剤の効きが良く、合併症などが出なかったことも早期回復につながった。ただ、入院中は深夜にストレッチャーが慌ただしく動く音が聞こえてきたり、患者がいたはずの病室が空室になっていたり、命の危険を感じる毎日を送っていたという。
「一日一日だった。5年後、10年後なんて考えられなかった」。大きな経験を乗り越え、今は家族にも恵まれ、野球人として充実した日々を送る。「毎日が楽しいよ。消えてここにいなかったかもしれない訳だから。この空間、この場所に自分が存在していることがうれしい」。
病気に対する恐怖心や不安はなくなった。ただ、「一日一日」という思いは消えない。「自分の最後が突然、くるかもしれない。だから、その日できることを精いっぱいやろうと思う。一球一球、できるだけいい球を投げたいね」。現役時代と変わらず、“一球入魂”の精神でチームを支えている。(デイリースポーツ・佐藤啓)