【スポーツ】若武者・阿武咲 憧れの稀勢の里との全力勝負の13番「最高の時間」
若武者が全力で立ち向かう姿に何ともすがすがしい気分にさせられた。大相撲秋場所(9月9日初日、両国国技館)を前に2日、成長一途の幕内阿武咲(22)=阿武松=が横綱稀勢の里(32)=田子ノ浦=の出稽古に真っ向勝負で応えた。
8場所連続休場中の横綱が進退を懸ける場所なのは22歳も重々承知。初日まで1週間という大事な時期に自らを稽古相手に選んでくれたことに感激した。
「情けない姿は見せられない。何をしても食らいついて行くような姿を見せないと横綱に失礼。それが自分のスタイルだし少しは見せられた。一番一番、本番と思ってやった」。がむしゃらに13番。とにかく出し切った。
突き押しが持ち味。低い立ち合いから、押しまくった。連敗スタートだったが、3番目、懐に入り下から押し勝った。その後も力強い踏み込みから一気に持って行く相撲もあった。8番を終えて3勝5敗。最後は5連敗とスタミナ負けしたが13番取って3勝10敗は善戦と言ってもいい。
師匠の阿武松親方(元関脇益荒雄)が「ゴムまり」と評する柔らかさが持ち味。「どんな体勢でも力が入る」と本人も言う。踏み込む左右の足、仕切りの位置など変化を付け少しでも勝とうとした。それでも横綱の伝家の宝刀、左腕の強さはすごかった。「体が浮いた」とハズ押しの威力に目を白黒させた。
幼少期よりのスターは稀勢の里だった。小学校3年時、一緒に写真を撮ってもらった。「日本力士であの朝青龍とかとガンガンやっていた」と、あこがれ続けた存在だった。お宝写真は今も携帯に入れてあり、青森の実家にも飾ってある。
前夜、その横綱が出稽古に来ると聞いた。「眠れずに遅くまで起きていた」と、興奮しまくっていた。
全身全霊の13番を終え、「幸せです。自分を成長させてくれる。楽しすぎて途中笑ってしまった。最高の時間」と夢心地。「もう少し勝ちたかったなあ」と無邪気に笑った。
何より当の稀勢の里が本当にうれしそうだった。「なかなか稽古場で力を出して激しくやってくれる人はいない中、力を出してくれる。力を付けている」。復活へ大いに若いエキスを吸収した。
本場所では初対戦となった昨年九州場所、阿武咲が突き落としで敗れた。「あこがれだけではダメ。倒さないと。土俵で勝ちます」。10歳下の若武者からの挑戦状。応えるためにも稀勢の里は引退危機を跳ね返すしかない。(デイリースポーツ・荒木 司)