【野球】「育成の力」がもたらした黄金のカープ

 「広島10-0ヤクルト」(26日、マツダスタジアム)

 今年も新戦力の台頭がリーグ3連覇の原動力となった。他球団がうらやむ選手層の厚さは育成のたまものだ。過去2年は前田、黒田が抜けた穴を新しい力でカバー。今季は鈴木、丸、野村ら主力選手に故障離脱が続出、薮田、今村、ジャクソンも不調に陥った。苦しい台所事情の中、投打に救世主が出現した。

 野手ではプロ4年目の野間が急成長を遂げた。昨季までは代走、守備固めとしてリーグ制覇に貢献したが、今季は鈴木、丸の離脱中に出場機会を増やすと、課題だった打撃を一気に開花させた。

 カープのドラフトには明確な指針がある。野間を発掘した松本スカウトは「基本的には足と肩がある子がほしい」と説明する。大学時代の野間は「走攻守三拍子そろった選手」という触れ込みだったが、プロ入り後は打撃で伸び悩んだ。それでも打撃コーチに付き添われ、一心不乱にバットを振り込んだ。春秋のキャンプ、シーズンを通して早出特打の常連。その成果が今年ようやく実を結んだ。

 東出打撃コーチはレギュラーの条件を「試合の最後までグラウンドに立つことができる選手」と表現する。カープでは「田中、菊池、丸、誠也(鈴木)だけ」と言う。代走、守備固めを必要としない選手がスタメンに多ければベンチワークは軽減される。野間が離脱した7月、東出コーチは「野間が復帰を待たれる選手になったか」としみじみ言った。来季へ温めていた1番構想は前倒しで実現。走攻守そろう野間は次代のレギュラー筆頭候補で、今やチームに欠かせない存在となった。

 投手では高卒2年目アドゥワがブルペンを支えた。昨季まで指導していた佐々岡2軍投手コーチは「1軍はもっと先と思っていた。まさかここまで」と驚きを隠さない。カープの高卒新人投手は約半年間、じっくり3軍で体作りに励む。登板は練習試合のみ。夏場まではウエート、体幹トレ、ランニングとトレーニング漬けの日々。アドゥワも同期の高橋昂らと育成プログラムを消化し、「体重は変わっていないが、体の中身が強くなった」と成果を口にする。

 昨年8月にデビューした2軍戦ではひたすら真っすぐを磨いた。196センチの長身から投げ下ろすムービングボールが最大の持ち味だが、佐々岡コーチは「とにかく、まず真っすぐ。結果より強い球、スピン量のある球をしっかり投げきれるか」と説明。直球オンリーの登板日も作ったという。昨季2軍での防御率10・36は技術向上を重視した結果だ。

 カープは日本選手だけでなく、外国人選手も育成する。前年にブレークしたバティスタに続いて、今年もドミニカ共和国にあるカープアカデミー出身のフランスアが大車輪の働きを見せた。来日5年目の苦労人は故障や四国アイランドリーグ派遣などを経て、今春は練習生ながら1軍キャンプに参加。ただ「育成にするかの見極め」(畝投手コーチ)で、1軍の戦力として計算されていなかった。

 3月にタバーレスと共に育成選手契約を結ぶと、実戦経験を積み重ねてポテンシャルが開花。来日当初は「フィールディングもできなかったし、ゴロも捕れなかった」(水本2軍監督)が、緩急を目的にカーブ、スライダーを習得すると、投球の幅が広がり、課題の制球難も改善した。

 制球が向上したきっかけはカープアカデミーでコーチを務める元広島・フェリシアーノの助言だという。昨オフ、同アカデミーを訪れた際に制球の重要性を説かれ、「それまではスピードを求めていたけど、制球の大事さが分かったんだ」とフランスアはうなずく。

 支配下選手登録された5月下旬には1軍で初先発を経験。それ以降は1イニングに全力投球する中継ぎ適性を見いだされ、勝ちパターンの一角を担うまでに首脳陣の信頼を勝ち取った。最速158キロの直球とスライダーが最大の武器。ブルペンの危機を救い、近年の課題だった左腕投手不足も解決してみせた。

 カープ独自のドラフト戦略、育成システムによって有望株を1軍の戦力に鍛え上げる。カープアカデミー出身の外国人も同様だ。ぶれない「育成の力」が黄金期を作り上げた。(デイリースポーツ・杉原史恭)

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