【野球】オリックス データアナリストは元寿司職人でハワイ人気店オーナー!?
オリックスの本拠地京セラドーム大阪でいつも見る人が気になっていた。小柄で色白。グラブを持って球拾いをしている。失礼だが、野球のグラウンドには似つかわしくない雰囲気だ。
調べてみると弾道計測器トラックマンなどを利用してデータ分析している戦略データグループに属していることは分かった。
球団スタッフに聞く。
「イカワさんという名前は知っていますが何をされているのかは分かりません。前はメジャーリーグにいたらしいですよ」。
えっ!メジャーリーグ?球団スタッフも知らない。それもそのはず、過去の球団リリースを見ても1度も発表されていない謎の人物なのだ。
ならばと福良監督に聞いてみた。
「“社長”か?ハワイに店を持ってるらしい。この間も有吉の番組が取材に来たとか言ってた。球団で何をしている?さあ、知らんなあ」
社長というニックネームで呼んでいるらしい。ハワイの人気店のオーナー?監督もどんな仕事をしているのか知らないとは、謎は深まるばかりだ。
ならばと直接取材を試みた。あなたは何をしているのですか?
「契約条件で球団の許可がないと答えられないんです。でも、僕は元寿司職人ですよ」
寿司職人?契約うんぬんを出してガードが堅そうに見せて意外な情報を見せてきた。いよいよ知りたい。森川広報部長に取材許可を求めると「戦略データグループの話以外なら」と意外にもあっさりとOKが出た。
経歴から聞いてみた。井川元太氏は神戸出身の50歳。京産大を卒業後、アパレル商社に勤めたが「つまんないなあ」と退社。ふらりと米国旅行に出掛けたという。
「すぐに帰国する予定だったんですけど、向こうの日本食レストランに住み込みで働かないか、永住権も取れるぞと言われて。それもいいかと思って寿司を習うようになったんです」
カリフォルニア州で永住権獲得を目指したが、申請者が多すぎてなかなか順番が回ってこない。隣のアリゾナに行ってみたらという提案を受けてアリゾナのレストランへ移籍。そこではあっさり取ることができた。1997年のことだった。
アリゾナといえばメジャーリーグのキャンプ地。日本食レストランには当時、エンゼルスに移籍したばかりの長谷川滋利、ロッテはキャンプ地として使用、SFジャイアンツの臨時コーチをしていた掛布雅之氏など球界関係者が訪れた。
「こんな世界もあるんやと思いましたね。楽しい世界。いつかこんな世界にいってみたいと思った」
99年、ある野球関係者から「これからはデータ野球の時代になる」と言われてコンピューターの学校に入ることを決意。昼は学校、夜は寿司職人。04年に苦労の甲斐あって資格を取得しIT企業に入社。06年、インターネットに自分の履歴書をアップしてみた。するとすぐに電話が掛かってきた。MLBからだった。
「WBCという大会を始める。日本人のスタッフが必要なんだ。すぐに来てくれ」
面接もなしに採用決定。通訳兼データ管理で日本や韓国のチームサポートに携わる。大会が終わるとJALのシステムエンジニアとしてロサンゼルスで赴任した。
08年1月、どこから聞きつけたのかドジャースから勧誘電話。「やりたいのか?やりたくないのかどっちだ」と言われ夢だった野球に携わる道を選んだ。
「キャンプ地のベロビーチに行ったら給料はJALの三分の一でした(笑)」
ドジャースではチームだけでなく、球場の売店まですべてのシステムの管理を請け負った。GMから「この選手の打球はどこに飛んでいるのか調べてくれ」と命じられると打球方向の傾向を出した。配球の傾向やチャートシステムの構築にも力を注いだという。
入団から10シーズンを終えて「いつかは地元に戻ってみたい」の思いから昨年4月に退団し、5月からオリックスに入団した。
役職は?「球団から好きに名乗っていいと言われているのでデータアナリストです。2月から10月31日までの契約です。終わったらハワイに帰って経営している店で皿洗いです」と真顔で答えた。
ハワイで最近、人気のカイマナファームカフェのオーナーという別の顔も持つ井川氏。結局、チームでどんな仕事をしているかまでは聞き出すことができなかった。謎は多いが魅力的な人物であることだけは分かった。(デイリースポーツ・達野淳司)