【野球】イチロー、外野フェンスを駆け上がる 指揮官「来季復帰は現実的」
センター方向へ伸びる打球。マリナーズのイチローが突然、外野フェンスを駆け上がり、捕球態勢に入った。履いていたのはスパイクではなく、歯がついていないランニングシューズだ。9月に行われた敵地エンゼルスタジアムでのエンゼルス戦。試合前の練習中の出来事だった。
イチローは5月にメジャー登録メンバーから外れ、会長付特別補佐に就任した。「来年、僕(の体重)が240パウンド(約109キロ)になってたらもう終わりですよ、それは。ただその可能性は低いので、そうでなければ、終わりではないと思います」。背番号51のユニホームを着て臨んだ会見。ユーモアたっぷりの言い回しで、引退を完全否定したイチローは、4カ月が経過した現在もチームに帯同し、他の選手たちと一緒に鍛錬を続けている。
背面捕球、背走捕球、逆手捕球…、次々と高難度のキャッチを成功させる。フェンスを駆け上がった同じ日には塀際で跳んで“ホームランボール”をもぎ取り、敵地ファンを沸かせる場面もあった。もちろん、ファン・サービスも兼ねてやってはいるが、球拾いではなく、守備練習。立場が変わってもその軸がブレることはない。
「体の状態は、春季キャンプの時よりかなりいいですね」。
そう話すのは、10月で45歳を迎えるベテランをずっと間近で見てきた、マリナーズのスコット・サービス監督だ。
イチローは3月にマリナーズと1年契約を結び、6年ぶりに古巣への復帰を果たした。入団会見の4日後にオープン戦に出場したが、3戦目で右ふくらはぎを痛めた。メジャー18年目の開幕には間に合わせはしたが、指揮官は「あのけががずっと影響していた。明らかに100パーセントではなかった」と話すとおり、復調のきっかけをつかめないまま、球団のフロントに入ることを決めた。
今なお、フリー打撃では柵越えを連発する。打撃練習の前後には、外野に出て他の選手の打球を追って縦横無尽に走り回る。打撃投手の1球ごとに敏感に反応するのは、『一歩目』を意識している証拠。サービス監督は「試合に出場しているかのような動きですね。多くの選手が75パーセントほどの力で練習している中で、イチローは常に試合を想定し、95パーセントの力で動いているように見える」と話す。
イチローは今オフにマリナーズと再び契約を結び、来年2月の春季キャンプに参加するだろう。来年3月下旬に日本で迎えるシーズン開幕戦で指揮を執る将は「彼が復帰して試合に出るのは現実的な話だと思いますし、彼もそこを目指して練習しています。来年は問題なくプレーできることを願っています。心身ともにいい状態をキープしているので、今後どうなるかを見守っていきたい」と、復活を期待する。
イチローがフェンスを駆け上がった翌日は今季最後のエンゼルス戦だった。試合前のチーム練習がないデーゲーム。いつものようにフィールドに出て個人練習をしたイチローは外野フェンスの近くまで行くと、再び、壁を駆け上がる動きを見せた。
エンゼルスには大谷翔平投手がいる。イチローが2日連続で右足で蹴った中堅フェンスの向こうには「ロックパイル」と呼ばれる岩山がある。大谷が本拠地で打った14本の本塁打のうち9本がそこに着弾している(数字はいずれも27日現在)。
「僕がやることに、説明できないものはないですから」。
かつてイチローはそう話したことがある。
来季、マリナーズは4月18日を皮切りにエンゼルスタジアムで10試合を戦う。背番号「51」が大谷の本塁打を阻止すべく、フェンスを駆け上がる姿が目に浮かぶ。(デイリースポーツ・小林信行)