【スポーツ】遅咲き28歳の柔道女王はサンボマスター 最強の“寝技師”浜田尚里

 27日までアゼルバイジャン・バクーで行われた柔道の世界選手権で、日本女子は5階級で金メダルを獲得した。さらに、史上初めて7階級に出場した9選手全員が表彰台に上がるという快進撃を見せて、2020年東京五輪に向けて大きく弾みをつけた。

 前年に引き続き、特に目を見張ったのが寝技による決着だ。今大会の日本女子の全46試合中21試合が寝技による決着だった。日本女子の増地克之監督はリオ五輪後の就任以来、寝技の強化に力を入れてきたが、「海外勢にとってはかなり脅威になっていると思う。試合で寝技になったときに海外勢が自分から場外に逃げるところもあった」と手応えを強調した。

 新ルールでは指導差だけでは決着がつかないが、相手に研究されて立ち技で膠着(こうちゃく)した場合でも、寝技の力量で差をつければ確実に仕留めることができる。また、従来は必ず「待て」がかかっていた寝技から立ち技への移行も一部可能になり、より立ち技と寝技の連続性が高まったことも、寝技強化を進める日本への追い風となった。

 とりわけ今回の代表9選手の中で「寝技のスペシャリスト」と言えるのが、78キロ級代表の浜田尚里(自衛隊)だ。世界選手権初出場となった遅咲きの28歳は絶対的な武器である寝技でプレッシャーを掛けながら、強化してきた立ち技でも2試合で一本を奪いながら頂点に輝いた。

 10歳で柔道を始めた浜田は、高校から寝技の練習に力を入れると面白いように決まり出したという。さらに山梨学院大時代、強化の一環でソ連発祥の格闘技であるサンボや柔術にも取り組んだことも転機となった。13年ユニバーシアード大会では柔道選手としては異例となるサンボ日本代表として出場し、金メダルを獲得。さらに、翌14年の世界選手権では、日本勢18年ぶりの金メダルを獲得してみせた“サンボマスター”だ。

 全日本の強化選手となってからも、立ち技ではなかなか一本を取るほどのキレはないものの、押さえ込みを軸に絞め技、関節技をバランス良く使いこなす寝技の決定力はピカイチ。昨年は国際大会での全15試合で、寝技によってオール一本勝ちを飾るなど圧倒的な寝技力で初の代表入りへ猛アピールしてきた。

 女子ラグビー日本代表との合同練習ではこんな一幕もあった。両競技の親睦を深めるための相撲対決を行った際、出陣する浜田は他の選手から「寝技は使ったらだめですよ!」といじられていた。それほど、「浜田=絶対的な寝技」というイメージが定着していることをうかがわせた。

 その実力は、女子代表合宿に特別講師として呼ばれた、日本のブラジリアン柔術の第一人者である中井祐樹氏をして「浜田選手の寝技は非常にいいですね」と言わしめるほどだ。

 ちなみに28歳での世界選手権初出場初優勝は、日本女子では史上最年長記録。この階級はリオ五輪代表の梅木真美(ALSOK)、佐藤瑠香(コマツ)、高山莉加(三井住友海上)との国内代表争いを強いられるが、これで一歩リードした。

 ただ、普段の浜田はおしとやかでマイペースだ。初の世界一にも「結果的に優勝できて良かった。プレッシャーは特に感じずにできた」と淡々と振り返った。勝てば来年の世界選手権代表が決まる、次戦のGS大阪(11月)に向けて「優勝して来年の世界選手権につなげたい」と地固めを誓う。(デイリースポーツ・藤川資野)

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