【野球】「ファイターズ最高!」野球を愛し、野球に愛された矢野謙次の引退

 数々の名場面が生まれた一方、多くの選手が現役生活に別れを告げた18年シーズン。日本ハム担当の記者は矢野謙次外野手(38)の引き際にプロとしての矜持(きょうじ)を感じた。巨人、そして日本ハムと厳しい世界を駆け抜けた16年。「仲間が宝物」と話す勝負師は、自身の生き様を言葉にして表現した。

 「私も松坂世代なんですけど、高校の時は甲子園にいっていないですし、大学も2部リーグという中でやってきて。僕は違うステージでやっていたという感じです。同じ世代で活躍してすごいな、誇らしいなという思いもありましたけど、僕は僕でみんなに負けないように、僕は僕なりにやっていこうという思いでやってきました」

 秋風吹く9月の鎌ケ谷スタジアム。今まで残してきた足跡をたどり、若手選手を見つめながら現在の心境を教えてくれた。「俺は『引退』という言葉を使うような選手じゃない。レギュラーを取ったことがないし、記録を残したこともない。修(村田)や俊哉(杉内)とは違うからね。(戦力外通告を受ける)覚悟はしてるよ」。一つ一つの言葉に重みがあり、一生忘れることのない時間となった。

 その後、球団との間でどんなやり取りがあったのかは分からない。間違いなく言えることは、己の信念を貫いたということだろう。9月28日、今季限りで現役を退くことを表明。引退試合となった10月10日・ロッテ戦(札幌ドーム)の前に行われた引退会見では「やっていればいいことも悪いこともあるんですけど、やっぱり仲間です。仲間がたくさんできたこと。一緒に勝って笑ったり、負けて悔しがったり。そういう思いを共有して野球ができる仲間がたくさん作れたので、それが一番の宝物だと思います」と思い出を語った。

 札幌ドームに入ると、巨人・阿部ら親交の深い関係者から届けられた30束以上の花束が出迎えてくれた。出番は5-4の七回2死一塁。「代打・矢野」のコールに背中を押され、プロ野球人生最後の打席に入った。仲間たちが三塁ベンチから身を乗り出して見つめる。カウント1-2からの7球目。唐川の直球を鮮やかに左前に運び、有終の美を飾った。

 「球団から引退セレモニーの話をしていただいたんだけど、最初は断ったんだよ。俺はそんなことをしてもらうような選手じゃないと思っていたから。でも、そう言っていただいて考え直して。ファンの皆さんに自分の口から感謝を伝えられる最後の機会だし、このような形でいこうと」

 場内のライトは消え、右中間スタンド後方のビジョンに仲間たちからの惜別のメッセージが放映された。巨人時代の同僚、日本ハム時代の同僚、母校・国学院大の恩師…。中田、大田、西川の後輩3人から花束を受け取ると、涙腺が崩壊した。最後は胴上げで10度宙に舞い、万感の思いを心に深く刻み込んだ。

 通算759試合に出場して374安打、153打点、29本塁打。無類の勝負強さで夢と感動を与えてきた男は、多くのファンに見守られながら最後の仕事を全うした。「偉大な先輩方、苦楽を共にしてきた同級生のみんな、かわいい後輩たち…。本当にありがとうございました。16年間で最高の仲間に出会えて、一緒に野球ができて、私は本当に幸せ者でした。最後に、魂込めて叫ばせていただきます。ファイターズ最高----!」。野球を愛し、また野球に愛された背番号37。16年間、お疲れさまでした。いつかまた、グラウンドでお会いできる日を楽しみにしています。

(デイリースポーツ・中野雄太)

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