【野球】人柄がつないだ縁…元阪神・山本翔也氏が挑む第2のマウンド

 各球団で新人合同自主トレがスタートし、間もなく一斉にキャンプインを迎える。球春到来。新戦力にスポットが当たる裏で、ひっそりとユニホームを脱いだ男たちがいる。昨シーズンまで阪神に所属した山本翔也氏(30)もその1人だ。

 昨年10月に戦力外通告を受け、トライアウトを区切りに引退を決断。1月から総合保険代理店「コア・ライフプランニング株式会社」に入社し、第2の人生をスタートさせた。阪神でつながった縁に導かれるように、新天地で“一流選手”への道を駆けている。

 「まだ何が大変かもまだわからない状態です。野球をやっている時からそうですけど、ジッとしてられない性格なので。大変というよりも、忙しくやらせてもらっていますね」

 甲子園球場から約17キロ。大阪府大阪市西区にあるオフィスで、山本氏は新たなマウンドに上がっている。野球への未練は-もうない。

 「トライアウトを受けたことが大きかったです。最後の1年は本当に苦しかった。野球を嫌いにもなりかけました。でも投げていると、これでユニホームを脱ぐかもしれないのに楽しくて。やっぱり好きだなと思って辞めることができました」

 球団から戦力外通告を受けた日、同時に職員として誘いがあった。翌日には前所属の王子からも声が掛かる。一度、ドラフトで退社した選手の復帰は異例のことだという。2013年度のドラフト5位で阪神に入団。即戦力左腕として期待されたが、通算5年で22試合の登板。わずか1勝で現役生活に別れを告げた。それでも人懐っこい性格で、多くの選手から慕われる存在。実績以上にファンからも愛された。

 「山本選手はどうされるんですか?」

 2軍の寮施設や球場がある鳴尾浜に行くと、幾度となくファンからの質問を受けた。こんな話もある。昨夏、ファームが北陸遠征に出た。BC福井との練習試合。恩師でもある福井工大福井・大須賀康浩監督が激励に来た。試合が長引き、登板機会なく終盤を迎えたが「翔やん見ないと帰られへんわ」と待った。接してきた人の姿に、山本氏の人柄がにじみ出ている。

 そんな姿に可能性を感じた人がいた。進路を模索していた時、不思議な縁が決め手になる。コア・ライフプランニング社の代表取締役・横山太一さんとの出会いだった。

 「ウチの会社の草野球チームがあって、試合でボロ負けしたんですよ。主力投手がどんどん打ち込まれましてね。それでトライアウトにいくぞーって」

 同取締役は冗談を交えながらだが、本気でエースとなるべき逸材を探していた。自身は幼少期にバックスクリーン3連発を球場で見た大の虎党。新聞で山本さんが戦力外通告を受けたことを知った。

 「思いついたら即行動が僕の信条なので。トライアウトに行って、山本翔也選手に声を掛けようと思いましてね。そしたらウチの名古屋の社員から、会ってほしい人がいるんですと。誰だと聞いたら、阪神の山本だと。こんな奇跡はない。成立させなきゃダメだと」

 実際、トライアウト会場の福岡県筑後市まで出向き、声援とともに熱意を伝えた。「彼はこの世界で、必ず一流選手になれる存在。阪神が西君に会うより会いましたよ」と笑う。数多ある選択肢の中から、そんな思いに感謝し、縁を大切にし、山本氏も入社を決めた。Jリーグ経験者に、ホッケー日本代表、剣道の全日本チャンピオンと、さまざまな経歴を持つ人材がいる中で元プロ野球選手の第1号、ドラフト1位だった。同取締役が続ける。

 「逃げたことないんですよ、彼は人生で。野球の頂点を目指してやってきて、最後も自分から逃げたんじゃない。やむを得なく辞めたわけじゃないですか。世の中のサラリーマン、営業マンって逃げることもできる。上司が嫌だ、仕事が嫌だと言って。でも、彼は登録できる人数の枠に、ずっとしがみつこうとやってきた人間。そんな男がこの業界でどうなるのか、僕は純粋に見てみたいんです」

 『人の悦ぶ道を創る』は同社の企業理念。矢野燿大新監督(50)が掲げる「誰かを喜ばせる」-のチーム方針に重なる。阪神で得た5年間の経験が財産にるはずだ。プロ野球選手の肩書が外れ、ゼロからの再スタート。節目の30歳は笑顔で5年、10年後の夢を語る。「山本さんががいれば安心だね、と言ってもらえるように。子供が野球しているなら、教えることだってできる。人と人として、関わっていける仕事ができたらいいですね」。ステージは変わるが、胸には猛虎魂が宿る。無限の可能性が広がる第2の人生。奇跡に導かれた軌跡を歩み、絶対的なエースを目指している。(デイリースポーツ・田中政行)

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