【野球】智弁和歌山・中谷監督の先を見た指導法 プロ野球で培った信念
何より自主性を重んじる。選手の意思を尊重する。3月23日に開幕の選抜高校野球に出場する智弁和歌山・中谷仁監督に、指導法について尋ねると、そんな答えが返ってきた。意外に思ったが、阪神、楽天、巨人といったプロ野球の世界での経験を踏まえた上での、揺るがぬ信念という。
「高校野球の結果だけがすべてではないという感覚が、どうしてもプロで長くやっていると根底にあってしまって。変な話、もちろん甲子園で勝つことは大前提で、同じ目標で目指してがんばりますけど、そこが最終目標ではないというか…」
監督として、目の前の試合で勝ちたいのは当然のことであり、選手も甲子園という夢舞台での優勝を狙う。目指すところはどこの学校も同じだろうが、中谷監督はそのためのアプローチを、選手主体で行う。高校での3年間より、はるかに長く伸びる選手個々のその先の人生を思って。
「違う組織に行って必要とされる人間になって、そこで能力をどう発揮できるか。やらしてもらわないと何もできない人間にはなってほしくなくて。AIに勝てないとだめやと思うので(笑)相手の立場に立って考えて行動するとかが必要と思うし、そういう人材になってほしいので」
智弁和歌山では通常、平日に2時から練習を始まれば、6時前に全体練習が終了。そこから個々に任せた自主練習となるが、生徒はほぼ毎日自主的に練習を考え、2、3時間は取り組むという。結果的に練習の3分の1ほどが自主練習となる。自分で課題を見付け、目標達成の方法論を考える力が自然と養われていく。
「もちろん、だからと言って試合に負けていいわけではないんです。(選抜の)目標としては優勝です。まあ(やり方が)甘いとも言われますが(笑)考え方やスタンスはぶれずにやっていきたい」
プロとアマチュアの違いはあるとは言え、自主性という言葉を聞くと、阪神・矢野監督と重なるところもある。「矢野さんと一緒だなんておこがましいです」と笑うが、選手にも自主性重視の練習は受け入れられており、主将の黒川も「中谷さんは1人、1人に向き合って話し合ってくださるので全員が一つになっている」と話す。
勝利至上主義、といったスタイルをすべて否定するつもりはなく、やらせる練習がすべて悪ということでもない。ただ、中谷監督のスタイルが浸透している智弁和歌山が、3月の選抜でどういった戦いを見せ、夏に向けていかにチームとしてレベルアップしていくのかが興味深い。(デイリースポーツ・道辻歩)