【野球】メジャー開幕戦「イチローを、見ないのか」…日テレさんに言われなくても
「イチローを、見ないのか」。マリナーズと巨人のプレシーズン試合を中継した日本テレビの煽るようなコピーがなんだか、気になった。
そんな違和感を抱いた人はやはり多かったようで、ネット上には「言われなくても見てます」「上から目線だ」などの反応が見られた。どこか気にかかるというのは、うまいキャッチコピーということなのだろう。
そのイチローだが、プレシーズン試合では代名詞のヒットは出ず。ただ、強肩披露や美しい走り姿、背面キャッチにファンへのサインなど日本で精一杯の心配りをしているように感じられた。
24打席無安打のまま突入するアスレチックスとの開幕戦。サービス監督はイチローのスタメン出場を明言している。45歳149日でのスタメン出場となれば、メジャーの野手では、かつてロッテにも在籍したフリオ・フランコ(45歳227日)に次ぐ記録なのだそうだ。
古い話になるが、オリックス時代のイチローはフランコと試合で顔を合わせるとよく会話をしていた。フランコがイチローに興味津々なのがよく見て取れた。95年7月に阪神大震災復興チャリティーマッチ(NPB選抜VS外国人選抜)が開催された際、デイリースポーツはフランコに手記をお願いしていた。その一部を紹介してみたい。
「それにしてもイチローは最高だね。誰が見ても最高だよ。でも素晴らしいイチローを見慣れているから、今日のホームランも当然かな。打たない方が不思議に思うぐらいの選手だ」「彼は野球のスペシャリスト。メジャーでもきっと、いい成績をあげるだろう」
鈴木一朗からイチローへと登録名を変更して2年目のシーズン途中の話である。天才は天才を知る。フランコは当時からイチローの才能を認め、リスペクトし、将来の活躍を予言していたのだ。
東京ドームでの巨人戦。イチローが打席に立つと観客は一斉にスマホを掲げ、ベンチのマリナーズ選手の一部も、ファンのようにスマホを手にしていた。オリックス時代のイチローも、行く先々の球場で同じようにフラッシュの嵐を浴びていたことが、懐かしく思い出された。
日米で20年以上にもわたって第一戦で走り続けてきた類まれな選手。その重み、尊さを、いま、改めて突き付けられているような気がする。努力する姿を人に見られることを極端に嫌う選手だったが、「打って当然」と言われる選手であり続けるために、どれほどの努力が必要だったのだろうかと思う。
昨年5月以降は、試合に出場できず、孤独なトレーニングを続けざるを得なかった。それでもイチローは、現役選手として日本での開幕戦に帰ってきた。16日の公式会見。母国開催で出場が確約されていることについてイチローは「日本人であることですでに勝ち組なんだな」と自虐的に話していたが、そうさせるだけの価値があるから-と、とらえることもできるだろう。
7年ぶりの日本凱旋。その感慨をイチローは「これはもう大変なギフト」と表現した。ファンにとっても、これは「ギフト」であり、「奇跡」のようなめぐり合わせではないか。
ユニホームを着て躍動するイチローを日本で見られる、最後のチャンス。「イチローを、見ないのか」-。日テレさんに言われるまでもなく、目に焼き付けようと思うファンは決して少なくないはずだ。(若林みどり)