【野球】イチローが3つ年上の記者を「小林君」と呼ぶ理由
スマートフォンの時計は「1:14」を表示していた。午後11時56分から始まったイチローの引退発表会見。200人を超える報道陣を前にひな壇上の背番号「51」はイチロー節を交えながら矢継ぎ早に飛んだ質問に答えていった。
記者は挙手し続けていたが、機会を得られずにいた。用意していた質問「弓子夫人と愛犬一弓への思い」はすでに聞かれてしまっていた。「あとお二人とさせていただきます」。司会者の声に緊張感が高まる。その時だった、記者にマイクが回ってきたのは。
残り時間を考えれば、長い質問は避けたい。「プロ野球人生を振り返って誇れることは何ですか?」。こう問うと選手からすかさずツッコミが入った。
「これ、先ほどお話しましたよね。小林君もちょっと集中力切れてんじゃないの」
全身の血の気が引いた。毛穴という毛穴から汗が噴き出た。会見の空気をぶち壊した申し訳なさ、自分自身への不甲斐なさ、恥ずかしさ。担当19年の時間は何だったのか。気が遠くなりそうになる自分がいた。
記者が想定したのは、練り上げた打撃技術や誰にも真似できないルーティンの確立など、長い時間をかけて取り組んできたものに対する選手の言葉。質問の拙さを猛省した。
実は記者は氏より3つ年上。にもかかわらず、ずっと「小林君」と呼ばれている。ずいぶん前に「ずっと僕の中では小林君なんだよねぇ」と言われたことがある。なかなか成長しない記者。叱咤激励と受け止めて前に進んでいきたい。(デイリースポーツ・小林信行)