【野球】喜怒哀楽+感謝も示す阪神・矢野監督 「楽しむ野球」は負け試合でも
阪神は開幕カードのヤクルト3連戦(京セラドーム大阪)を2勝1敗で終えた。各野球評論家の順位予想が下位に沈む中、前評判を覆すかのような戦いを見せる。関西ローカルのテレビでは、直近5年間の開幕連勝発進は、優勝確率70%など、景気のいい話題で盛り上がっている。
開幕3連戦はいずれも1点差ゲーム。「打てない…」という声もあるが、接戦に競り勝ったカード勝ち越しでもある。当然、戦うのは選手だが、球団内には「ベンチの空気が勝利を呼んだ」との声も少なくない。若手、ベテラン問わず、塁に出るとベンチに向け、両手を挙げてガッツポーズ。矢野監督ら首脳陣らもこれに応える。
これは日本代表、侍JAPANのコーチでもある清水ヘッドコーチが、3月のメキシコ戦で相手ベンチの雰囲気に感銘を受けたもの。早速、チームに戻って還元。ミーティングでその話を伝えると選手が、自然発生的に直後の試合から始めたという。そんな3月中旬の戦いから、明るい野球を続ける阪神。象徴が矢野監督の姿だ。
開幕前々日の3月27日。練習前に全体ミーティングで2つのエピソードを選手に紹介した。AKBグループの総合プロデューサー・秋元康氏がロサンゼルスに到着し、タクシーを降りて1歩目で犬のフンを踏んだ話。2003年、雨中の優勝パレードで喜ぶファンの姿に感動した話。「その時、その時の境遇をどう思うかは自分次第。苦しいこともあるだろうけど、どうせやるなら楽しんでやろう」などと伝えたという。
ミーティングの話を体現するように、指揮官はベンチでさまざまな顔を見せた。得点シーンでは誰よりうれしそうに喜び、不可解な判定には真っ先にベンチを出て抗議する。糸井の本塁打がリプレー検証されると、両手をすりすりと拝むようにして判定を待った。さらに驚くべきは3戦目、敗戦後の行動にある。
敗れたチームの監督は通常、試合直後にベンチ裏へと消える。だが、矢野監督がグラウンドに足を踏み入れると、続けてコーチ、選手らも一塁線に沿って整列する。勝利した試合後と同じように、スタンドのファンに向けて一礼した。指揮官がその意図を明かす。
「(ホームゲームで)ずっとやろうと決めていた。来てくれてありがとうっていうのと、ごめんなさいねとね。勝ったときは一緒に喜び合って、負けたときもそうやって。気持ちのつながりが、互いの中にできていければいいかなと」
就任時に掲げた方針の中で、「誰かを喜ばせる」ことを、柱の1つにした。
勝って、ありがとう。負けて、ごめんね-。
シンプルな行動だが、スタンドのファンは驚き、エールを込めた声援を送った。
好スタートは切ったが、2日からは巨人、広島を相手に、敵地で6連戦に挑む。チームにとって最初の正念場。分岐点になるのは言うまでもない。それでも、矢野監督の「楽しむ野球」を貫けば、開幕ダッシュも見えてくる。そんな期待を抱く3連戦だった。(デイリースポーツ・田中政行)