【スポーツ】サニブラウンだけじゃない、世界へ羽ばたく令和の陸上選手たち
福岡市で行われた陸上日本選手権は30日、サニブラウン・ハキーム(20)=米フロリダ大=の2冠で幕を閉じた。東京五輪へ向けて成長著しいサニブラウンにとって生まれ故郷での凱旋試合でもあった。しかし、20歳はそんな感傷とは無縁だ。米国で最高峰の指導を受けながら、勉学のハードルも越えている。「自分が成果を見せることによって、後に続く高校生や若い人たち、年上の人もそうですけど、米国や他の外国のコーチのところでもまれるようなチャレンジができればいいな」と、道を切り開いている自覚がある。
今大会を取材していて感じたのは、サニブラウン以外にも、前例がない、もしくは少なくても、臆することなく海外に飛び出す選手が増えていることだ。女子やり投げで今季日本記録を更新し、今大会も大会記録で優勝した北口榛花(はるか、21)=日大=は、一昨年に前コーチが突然退任し、指導者不在となった。
昨年11月にはフィンランドで開催された競技の情報交換会に参加し、男女の世界記録保持者を有するやり投げ大国チェコの指導者に「コーチをしてほしい」と依頼。受諾してくれるまでメールでラブコールを送り続けた。今年2月には単身でチェコへ渡り、約1カ月の技術指導を受けて5月に日本記録を更新。7月上旬からは世界選手権(9月、ドーハ)までの約3カ月、日本に帰らずチェコを拠点に欧州を転戦するという。
また、男子棒高跳びで2大会連続五輪出場の山本聖途(27)=トヨタ自動車=は、今大会には海外転戦でたまった疲労が影響した。「日本選手権の位置づけは高い」と言いながらも「世界で自分の力を試したかった」と悔いは見せなかった。実際、5月のダイヤモンドリーグ開幕戦、ドーハ大会で3位に入り、17年世界選手権覇者のサム・ケンドリクス(米国)を制して力は見せた。
海外で感じたのは、他選手との体力差だと言う。「僕は年間15試合くらいだけど、海外の選手によっては35試合も出場している選手がいる。2日後にまた別の試合に出るとか平気。あるトップ選手は試合が練習だぞと言っていた」と刺激を受けて帰国した。
また、世界選手権代表入りした女子100メートル障害の木村文子(31)=エディオン=は、今冬にオーストラリアで12年ロンドン五輪金メダルのサリー・ピアソンとともに練習するなど、ベテランの域になっても新たな挑戦を続けている。年齢、種目に関係なく、主体性を持って独自のスタイルを確立していく令和のアスリートたち。日本人にとって遠かった世界の高みを、自ら切り開いた道で体感した経験は、陸上界の大きな糧になりそうだ。