【スポーツ】逃した世界ベルトを糧に、審判で初世界戦、元日本王者の池原氏
ボクシングの元日本バンタム級王者で現在は日本ボクシングコミッション(JBC)の審判を務める池原信遂氏(43)が1日、エディオンアリーナ大阪で行われたWBA世界ライトフライ級王座戦で初めて世界戦のジャッジを務めた。同級スーパー王者の京口紘人(ワタナベ)と挑戦者で同級1位の久田哲也(ハラダ)の日本人対決で3人のジャッジの一人に抜てきされた。
池原氏は2008年1月にWBA世界バンタム級王者、ウラジーミル・シドレンコ(ウクライナ)に挑戦し、判定負け、09年に引退し、13年に審判となってからは会社員と二足のわらじを履いてきた。選手として世界戦経験のある審判が世界戦のレフェリーやジャッジを務めるのは世界でも数少なく、JBCによると日本では初めての例だ。
名門大阪帝拳出身。元WBC世界バンタム級王者の辰吉丈一郎の後継者として期待され、日本王座は獲得したが、惜しくも世界ベルトには届かなかった。世界戦の重みは誰よりも知るだけに、試合前には「世界を獲るかどうかで選手の人生を左右する。自分の試合より緊張する」と重い責任に気持ちを引き締めていた。
試合は3-0判定で京口が2度目の防衛に成功。激しい打ち合いで採点が複雑なラウンドもあった。「ゴングが鳴る直前はヤバいと思った」と言いながらも、「カーンと鳴ったら大丈夫だった。いい試合だったので没頭できた」と終始冷静に採点した。
一方で、日本人対決のリングサイドで両選手の思いは自然と心に突き刺さった。46戦目で世界に初挑戦した久田の闘志には「この試合にかけているんだなと思った。気持ちが伝わった」。子どもの頃に大阪帝拳に通っていた旧知の京口からは「王者のプライドを感じた」と言う。
審判になって6年。常に心がけてきたのは、選手が納得できるレフェリングや採点だ。「これは4回戦でも世界戦でも同じ。勝負しているのは選手。もちろん安全面に配慮しながら、負けた選手にもこれなら仕方がないと思ってもらえるように」。大舞台でもその矜持を守った。
くしくも11年前に自身が敗れた大阪府立体育会館(当時)での“世界戦デビュー”。大仕事を終え、見えてきたのは新たな未来像だ。「いつか海外から呼ばれるようなレフェリーになりたい。日本(の審判)なら池原だと言ってもらえるように」
そして、前回とは違う手応えもある。「世界王者は夢に終わったけど、レフェリーは自分の努力次第。夢というより目標だと思う。世界王座は獲れなかったけど、今度はここで頑張りたい」。いつかは本場のビッグマッチへ。世界への2度目の挑戦が始まった。(デイリースポーツ・船曳陽子)