【スポーツ】ビーチの“カナリヤ軍団”が東京五輪を席捲!?
ブラジルのスポーツでお家芸として真っ先に思い浮かぶのが、おそらくサッカーだろう。代表は“カナリヤ軍団”と呼ばれ、自国で絶大な人気を誇る。他にもバレーボールなどもワールドクラスだが、近年メキメキと力をつけているスポーツがある。サーフィンだ。
サーフィンはご存じの通り、2020年東京五輪から新たに追加種目として実施される。この新種目の金メダル候補にブラジル代表のサーファーが並ぶ。
サーフィンの世界最高峰リーグと言われるのが、ワールドサーフリーグ(WSL)。聞きなれない名前かもしれないが、日本の五十嵐カノアが参戦しているリーグと言えばわかる人も多いかもしれない。そのリーグの頂点に位置するのがチャンピオンシップツアー(CT)。そこには世界でも限られた人数しか参戦できない。東京五輪の出場枠は男女20人ずつだが、すでにCTサーファーから男子が10人、女子が8人内定しており、おそらくこの中から金メダリストが現れるだろう。この世界トップレベルのリーグで、男子の昨年度ランキング1位、2位を占めたのがブラジル勢だった。
なぜ、ブラジルがサーフィン大国となったのか。その理由をWSLツアーエクゼクティブの近江俊哉氏に話してもらった。
「一つは、地形の問題。ブラジルは大西洋に囲まれていてサーフィンに適している環境です。そして、ビーチブレイクが多く、そこではエアリアル系の技が出しやすい。もちろん、ブラジル勢が台頭する以前もエアリアル系の技を出す選手はいましたがそれほど多くはなく、エアリアル系の技を繰り出しても得点には反映されませんでした。しかし、2000年代後半になるとエアリアル系の技を出せる人が多くなり、逆にエアリアル系の技を出せないと得点が伸びなくなりました。これはWSLの採点基準が変わり、エアリアル系の技が見直されたことが理由です」
身体能力が高いブラジル人は、リップから空中に飛び出す難易度が高いエアの技を進化させていき、WSLで好成績を収めていった。
2つ目は、ブラジルサーフィン界のレジェンドであるアドリアーノ・デソウザの存在。近江氏によれば、1983年生まれのブラジリアンは、私財を投下して次世代の育成に力を入れたそうだ。自腹を切って若手を遠征先に連れていくなどして、現場の空気感を味わわせた。
その甲斐あって、2014年にガブリエル・メディーナが当時20歳の若さでブラジル人史上初のWSL王者に輝いた。そして翌年にはデソウザ自らがチャンピオンとなり、2018年にメディーナが2度目の戴冠。そして、今年はイタロ・フェレイラが王者となった。
このメディーナ、フェレイラこそが、デソウザによって力をつけた世代だ。今日のブラジル躍進は、デソウザなくして語ることはできない。また、ブラジルが国を挙げてワールドクラスのサーファー育成に力を入れたことも大きいと近江氏は説明する。
そして最大の理由が、ブラジル人のメンタル。「彼らは勝利へのハングリー精神が他国と比べ物になりません。また、サーフィンは個人競技ですが、国同士の結束が強く愛国心が強いです」と近江氏は話す。このメンタルの強さは国の威信をかけて戦う五輪では大きな武器となる。それだけに、自国開催で金メダルを狙う日本勢にとって脅威となるだろう。
東京五輪のサーフィンは、千葉県の釣ヶ崎海岸(志田下ポイント)を舞台に7月24日から開幕する。ビーチの“カナリヤ軍団”が見せる世界トップレベルのパフォーマンスから目が離せそうにもない。(ライター・一野 洋)