【芸能】神田松之丞改め六代目神田伯山が貫く「静」と「動」の神髄
講談という演芸に注目が集まったのは、何十年ぶりだろうか。その中心にいるのが、神田松之丞改め、六代目神田伯山(36)。11日から新宿末広亭、21日から浅草演芸ホールで襲名披露興行を行っており、連日超満員の盛り上がりを見せている。
講談師人生で最大とも言える、一世一代の大舞台。緊張感の漂う中、粛々と流れていくのが通常だが、やはり伯山はひと味違う。末広亭の初日終演後には記者会見を実施。「(初日が)終わった後に記者会見するっていうのは、前例がないんじゃないでしょうか」としつつ、「多くのマスコミの方に知ってもらって、講談が広がる第一歩になればと」と意図を口にした。
末広亭と浅草演芸ホールでは前売り券を発売せず、当日の早朝から整理券を配布するシステム。末広亭では前日の深夜から整理券を求める行列が発生した。末広亭の初日終演後は、観客や入場できなかったファンらが入り口前に集結する大騒ぎとなった。
これも伯山の“仕掛け”の1つ。「ここまで来ると、もうムーブメント。僕の芸を聞きたいというよりも、祭りに参加したい、大初日を体験したと言いたい、というエンターテインメントになってるんだと思う」と自ら分析しつつ、「それはいいことなんじゃないですか。狙い通りでした」とニヤリ。YouTubeの公式チャンネルを開設し、襲名披露の裏側も公開するなど、積極的に伝統芸の“壁”を打ち壊しにかかった。
初日に演じたのは、得意ネタの1つである「中村仲蔵」。襲名披露の初日という大舞台で、その筋を一部、変更した。「笑いを増やしました。固定しきっていた『仲蔵』を動かしたことでクオリティ下がったけど、これからの第一歩としては良かった」と驚きの発言。「披露目でいい芸やってる真打って、見たことないんですよ」とさらに驚かせつつ、「何が課題かっていうと、『動かす』ということ。(将来へ向けて)動かないと良くないので、動かせたってことで自分の中では満足」。開演前、舞台上、終演後と、伯山としての一歩目の舞台で、すでに遥か先を見据えた『動』の姿勢を貫いた。
講談界の“革命児”として捉えられている伯山。だがその芯には、芸に対する不動の信念がある。すべての行動は、講談のために-。「まだ36歳でペーペーなんですけど、若い人たちに『講談をやってみたいな』と思ってもらえるようになればいいなと思ってやってきた活動が、少しずつ実を結んできた。異例尽くめですが、これを見て誰かが『俺もやってみたいな』と思ってくれたら本望でございます」。破天荒な言動の影にある真摯な思いが口をついた。
テレビやラジオといったメディアに積極的に出演するのも、とにかく講談を世の中に広めたいという一心。口八丁手八丁、ある意味「香具師」のような存在であることを自覚した上で、「それができるのは、僕しかいないから」と言い切る。それだけに、松之丞から大名跡の伯山に変わっても「テレビやラジオもスタンスを変えることはない。急に方向転換は現実的に出来ないですね。これだけしか人数がいない講談界で僕がそれをしたらムーブが下がっちゃう」と宣言した。
「芯がぶれたくはない。講談が本丸で、それを広めるためにテレビラジオに出ている。講談がしょぼくなるとお客さんが『えっ』て思うでしょう。月1本のネタ降ろしとか、地味な作業が出来るかどうか。それが出来なくなったときには、自分の天井がなくなる」と熱っぽく語った伯山。あくなき「動」の裏付けにある骨太な「静」。その両立こそが、講談界の歴史を塗り替える男の神髄だった。(デイリースポーツ・福島大輔)