【野球】ライバル・嶋の離脱でヤクルト・中村の思いは…死球で右手親指付近を骨折
高津ヤクルトにとってはショッキングなニュースだった。今季の正妻候補の一人だった嶋基宏捕手(35)の負傷離脱。これで「扇の要」は中村悠平捕手(29)に託されることが確実となったが…。ライバルの離脱を中村はどう見ているのか。胸に秘めるその思いに迫った。
春の神宮に、長い影が伸びた。ライバルの戦線離脱。これで中村の正捕手としての地位は確実となったが…。「自分がしっかりやらないといけない…」。その表情は、苦悶(くもん)に満ちていた。
21日に行われた阪神との練習試合でのこと。嶋が死球を受け、右手親指付近を骨折した。ライバルながら、投手陣を共に支えてきた仲間がまさかの負傷離脱。全治は未定だ。
昨季まで正捕手として戦ってきた中村と新加入した嶋。二人はライバルであり、同志でもあった。実戦では先発マスクを交互にかぶり、中村がベンチスタートの日は“探し物”を見つける時間になったという。
同級生でもある小川とバッテリーを組むのは、中村の仕事だった。だが、今年からは少し違う。21日の阪神戦では、初めて小川-嶋のバッテリーで先発出場した。でもそこに悔しさやもどかしさはなかったという。優しく笑い、言葉を紡いだ。
「嶋さんって、『あいつ、この球種はここで使えるね』とか気付いたことを、僕に教えてくれるんですよ。普通ね、ライバル関係だったら、言わないことなんですけどね」
中村は昨オフに右肘のクリーニング手術を決断。その直後に発表された嶋の加入に「負けられない思いがリハビリの糧だった」と危機感を覚えていた時期もあったと笑う。だが、2月のキャンプでは常に行動を共にした。練習中はもちろん、帰りのタクシーでもいつも一緒だった。
「見て、話して、勉強になったことがたくさんある。どうやったらチームが勝てるのか、投手のためになるのかを一緒に考えられる先輩ですから」
骨折の翌日から、球場に嶋の姿はなかった。中村は言う。「嶋さんの思いを背負って、帰ってくるまで、僕が頑張りたい」。24日から2軍・戸田球場で、嶋は体を動かし始める予定。二人の合言葉は投手のために、チームのために-。離れていても、気持ちは同じだった。(デイリースポーツ・松井美里)