【スポーツ】笑顔の癒し系“おにぎり君”隆の勝の躍進に、貴景勝の存在
新型コロナウイルス感染が広がり、史上初の無観客開催となった大相撲春場所で東前頭9枚目の隆の勝(25)=千賀ノ浦=が開花の兆しを見せた。自己最多12勝は優勝した白鵬の13勝に次ぐ“準優勝”。初の三賞となる敢闘賞を獲得した。
いつも笑顔の癒やし系で愛称は「おにぎり君」。6人きょうだいの4番目で大家族が一番の応援団だ。千葉県柏市出身で今は珍しい、中卒のたたき上げ。角界に入って11年、着実に番付を上がって来た。
成長を後押ししたのが部屋合併だ。18年10月、旧貴乃花部屋力士らが千賀ノ浦部屋に移籍してきた。その直後の九州場所で同部屋となった貴景勝(当時小結、現大関)が優勝。隆の勝は優勝パレードで旗手を務めた。
食事面やトレーニングでストイックな大関と間近で接し、意識も変わってきた。東京ではジムに通いウエート練習も積極的に取り入れるようになった。
「見習うべき存在ですね。頭も良くて。一番参考にしたいのは立ち合い、突き押しで下半身がぶれないこと」。場所前には三番稽古(同じ相手と続けて何番も取る)の相手に指名され20番近く取る。
自身も押し相撲ながら、角界屈指の馬力を誇る大関の当たりをまともに受けては太刀打ちできない。試行錯誤し、流れの中で右を差す形があり通用した。
「去年の九州(場所前)ですね。大関から『右いいっすね』と言ってもらって。場所前の稽古で一、二番そういう相撲があって。圧力に耐えられて、当たりを受け止められるようになって体力がついた。1日20番以上取って押し切るような相撲もあった。大関と真っ向勝負だけじゃ相撲にならないですから」。
加えて左の使い方は同じく同僚になった十両貴源治から助言。「大きいっす。外からじゃないと分からない部分。今までは使ってるつもりだけで、使えてなかった」と、合併効果にうなずいた。
場所中は朝稽古後に大関から「きょうの相手は誰ですか?」と尋ねられて、相手によって的確な“攻略ヒント”をもらう。恐ろしいほどにその助言が当たる。「大関が時々言うんです。『相撲は誰でもできるけど、馬鹿じゃ勝てない』と。頭を使わないと、上では勝ちにつながらない」。
頭と体が合致した先場所は初日から4連勝し1敗後、また4連勝で自己最速の勝ち越し。優勝争いに食らい付き、終盤の3日が圧巻だった。13日目、1敗で単独トップだった巨漢の碧山(春日野)を一気に押し出し。14日目は相撲巧者の御嶽海(出羽海)相手に馬力勝ちし、右差しから押し出し。千秋楽は実力者の関脇正代(時津風)を右から押っつけて最後は押し倒した。
地力アップに加えて、声援がない会場が隆の勝には奏功した。「最初はさみしいと思ったけど慣れてくれば稽古場に似てる。集中しやすい。いつもならまわりをキョロキョロしたりしてたけど今回の場所は集中する方法が分かった。お客さんがいたら肩の力が入る。肩の力が抜けてできているので」とリラックス。師匠の千賀ノ浦親方(元小結隆三杉)は「稽古場で強いタイプ。プレッシャーに強いタイプじゃない」と言う。まさに稽古場の力がそのまま出た。
先場所の経験が今後も糧になる。「今場所みたいな感じでできれば緊張することはない。花道に入った時からやるしかないというか自分の相撲を取って勝てればという気持ちでできている」。初の上位総当たり戦が見込まれる夏場所(5月24日初日、両国国技館)でも期待できそうだ。
母は整体師。実家に戻った時は体のケアをしてもらう。家族LINEがあり、負けが込むと姉たちから「顔が死んでいるよ」と温かい!?励ましをもらう。
大家族がいるからいつも前向きになれる。「ずっと笑っているわけじゃないっすよ。土俵上でも笑ってたら完全にアウト。でも引きずったら負け続けちゃうんで、暗いよりは明るくと心がけてます。後もうまく進む感じなので。笑顔のきっかけは特にないけど家族全体そういう感じ。家族が多くて良かった」と、ニコニコと話す。
1994年生まれで同学年はフィギュアの羽生結弦、メジャーリーガーの大谷翔平、プロ野球広島の鈴木誠也、競泳の萩野公介、瀬戸大也ら一流がズラリ。角界の同学年も幕内阿炎(錣山)、炎鵬(宮城野)、輝(高田川)、照強(伊勢ケ浜)ら個性派がそろう。
“94年世代番付”の両横綱が羽生、大谷なら、自身は「幕内上位くらいですかね」と控えめ。「もっと頑張りたい。(彼らと並ぶには)大関じゃないっすか。やっぱりオリンピックはでかい。こっちもある意味、世界と戦ってますけど。三役じゃ足りない気がします」。いつか黄金世代での対談を夢見て、出世街道を歩む。(デイリースポーツ・荒木 司)