テレビ画面に映し出されたテロップに目を疑った。２０１６年２月２日。清原、逮捕－。球春到来を告げたばかりのタイミングで流れたニュースのインパクトはとてつもなく大きかった。

　「キャヒーン」と金属バットが鳴る。超ド級の活躍を期待して見守った者の想像を超えた怪物。憧れの存在だった。

　１９９７年７月２３日。大阪ドーム（現京セラドーム）で行われた球宴第１戦。巨人移籍１年目のシーズン前半は不振に陥ったが、ファン投票で１２年連続の出場を決めたお祭り男は三回、ロッテ・小宮山から右中間フェンス上部を直撃する打球を放った。すると、コンサート開催時用に取り外し可能だった縦１メートル、横２メートルのフェンスがはがれ落ちた。当時、大阪ドーム関係者が「打球が当たったぐらいでは、はがれないはずなんですけど」と驚く一打でもあった。

　試合途中に中継局のインタビューを終えた三塁側のミラールーム。記者取材に移った際、現場に居合わせた記者はルーキーの私一人だった。憧れの人の初取材がマンツーマン。心臓がバクバクする音が、外にまで漏れてるんじゃないかと思うほど緊張した。

　記者「さすがの勝負強さですね」

　清原「いや、そんなこと…。たまたまいいところに飛んでくれました」

　記者「フェンスがはがれました」

　清原「そうみたいですね。大阪ドームとはなにかと相性がいいんですかね」

　同年３月の大阪ドーム開設記念「コナミプロ野球トーナメント大会」で、天井のスーパーリングの中にファウルを飛ばした“事件”を振り返りながら、ご機嫌で取材に応じてくれた。感激と興奮で震える手でメモを取り、巨人担当の先輩に談話を伝えたことを今でも覚えている。

　２０００年代に入り、知人から厚生労働省麻薬取締部が清原を内偵しているという話を聞いた。清原が覚醒剤？ウソだろ。ウソであってくれと思いながら、ガク然とした。

　その数年後。寝違えで首が回らなくなり、東京出張前に名古屋市内の治療院に出向いた。診療開始前の待合室のソファに身を沈めていたところ、診察室の扉が開いた。先生に「ありがとうございました」と言って出てきたのは清原だった。何年ぶりかの“再会”だが、向こうがこちらのことを知っているはずがない。「こんにちは」と声を掛けたが、一瞥（いちべつ）されただけで、何も返ってはこなかった。

　清原の知人に話を聞いた。

　「本当のキヨはシャイで優しいヤツなんだよ。あんな大きい体してるけど、気も小さいし。後輩ができて虚勢を張ってたところもあっただろうけど、クスリに手を出したってのは結局、自分が頼られることはあっても、自分が頼れる人がいなかったんだろうな」

　どんな悩み事があったにせよ、覚醒剤に手を出したことは許されることではない。それでも、昨年１１月には神宮球場で行われたトライアウトの監督を務め、その後も薬物関連の啓発活動イベントに出席するなど、公の場に出ることで薬物の恐ろしさを語ると同時に、今なお襲いかかる依存症と闘っている。今年６月には４年の執行猶予期間が明ける。良きにつけ、あしきにつけ、発信力のある人間。また笑顔で取材できる日を待ちたい。（デイリースポーツ・鈴木健一）