【スポーツ】戦うのは人のため マイク・タイソン 53歳でチャリティーマッチへ

 あのマイク・タイソンに“復帰”の可能性があるという。インスタグラムに上がった動画を見て驚いた。ほんの数秒だったが、自分より一回りも二回りを大きな相手をなぎ倒したスピードとパワーの両輪は、53歳とは思えないほどの健在ぶりだった。

 1990年代はタイソンの時代だった。記者はボクシング担当1年目の96年9月に、WBA世界へビー級タイトルマッチのブルース・セルドン戦をラスベガスで取材する機会に恵まれた。相手を109秒で瞬殺し、「たった3発で16億5千万円 一発5億5千万円TKO」と見出しが踊った試合だ。タイソンはWBA・WBC統一王者として6年ぶりに戴冠した。

 時代の寵(ちょう)児は、婦女暴行事件による服役で4年のブランクをあけて再始動し、王座に返り咲いていた。現地の盛り上がりの一方で、タイソン自身はどこかさめた様子で、記者会見では居眠りする様子も見せた。プロモーターのドン・キング氏は必死に盛り上げを図っていたが、本来なら両者が火花を散らす前日の計量でもタイソンはほとんど何も語らず静かに会場を後にした。

 当時は、セルドン戦より、その先にキング氏が計画していた元統一王者イベンダー・ホリフィールドとのビッグマッチに注目が集まっていた。ただ、タイソンの気乗りのなさはそのせいには見えなかった。むしろ、目の前の試合に心を乱されまいとする繊細さのあらわれのように見えた。

 記者の取材はその一度だけだったが、後にタイソンに密着したドキュメンタリー「BEING MIKE TYSON」を見て納得した覚えがある。不遇の幼少時代を過ごしたニューヨークのブルックリンや3年間服役していたインディアナポリスの刑務所を訪れ、ゆかりの人物とも直接対面していた。「世紀の耳噛みつき事件」を起こした相手のホリフィールドと交流する様子もあった。犯罪が許されることはないとした上で、過去から逃げず、一人一人に向き合う姿は印象的だった。

 ドキュメンタリーでは社会貢献への強い思いも語っていた。現在は新型コロナウイルスの感染防止のため、手洗いのイラストのTシャツを販売し、収益を最前線で働く医療従事者へ寄付する活動も行っている。

 今回の“復帰戦”も、薬物中毒者やホームレスを支援するチャリティー活動の一環だという。動画の迫力あるミット打ちを見れば、しっかり準備を積み重ねていることはわかる。“金のなる木”として生きた若い時とは違う、人のために戦う心優しきタイソンを改めて見たい。(デイリースポーツ・船曳陽子)

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