【芸能】最年少タイトル記録保持者・屋敷九段が語る藤井七段の強さは「探究心」と「心の強さ」
将棋の藤井聡太七段(17)が、渡辺明三冠(36=棋聖、棋王、王将)に挑戦する第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第2局が、28日に東京・千駄ヶ谷の将棋会館で指され、藤井七段が勝利。2連勝とし、史上最年少でのタイトル獲得に王手をかけた。
藤井七段の歴史的完勝譜と評されたこの日、立会人を務めたのは現在の最年少タイトル記録保持者である屋敷伸之九段(48)。終局後、自身の記録を塗り替えようとしている藤井七段の将棋について話を聞くと、いくつか意外な答えが帰ってきた。
この日も中盤で自らの歩の前に金が進出する5四金といった妙手を連発した藤井七段。「AIが6億手読んでも見えない手」との評判だが、屋敷九段は「検討している中で、その手自体は見えるし、その手があるのはわかる」と回答した。その上で「でも、リスクが高すぎて、思いついても普通は指し切れない」と説明。「それを棋聖戦という舞台で、強い相手に指して、勝ち切ったというのは価値がある」と、自身の判断を信用して大勝負で踏み込んだことを高く評価した。
将棋の勉強にAIを本格的に活用している世代が台頭している昨今、それまでの常識にとらわれない指し手は、藤井七段以外にも目立つ。だからこそこの5四金も“AI世代”の特徴かと思いきや、「それとはまた別かな」という。
「もちろんAIも活用しているとは思いますが、それよりむしろ、新しい手を試してみたらどういう形になるのか、という心。先入観にとらわれないのはAI世代の特徴かもしれませんが、藤井さんは将棋の“可能性”に挑んでいるように見える」とし、その強さの根源を「探究心と心の強さ」と分析。屋敷九段もかつて、周囲を驚かせる鬼手で“忍者屋敷”の異名を取ったが、「自分とはまた、ちょっと違うような感覚はしますよね」と笑いながら話した。
将棋の世界もAIが人間を凌駕したと言われて久しいが、9×9マスの盤面には、そして人間の頭脳には、無限の可能性が残っている。わずか17歳にして藤井七段は、まだ未知の世界に踏み込み、将棋というゲームの神髄に迫ろうとしているのかもしれない。
7月1日からは、棋聖戦と並行して王位戦七番勝負もスタートする。待ち受けるのは昨期、史上最年長で初タイトルを獲得した木村一基王位(47)だ。“最年少VS最年長”に加え、攻めの強烈な藤井七段と「千駄ヶ谷の受け師」と称される木村王位の対戦は、正反対のキャラクターの激突のように思われる。だが、ここでも屋敷九段の見解は異なった。
屋敷九段は藤井将棋の強さについて「ベースにあるのは、受けの強さだと感じている」と語った。確かに棋聖戦第2局でも、3一銀といった途中で自陣に手を戻す堅実な差し回しが光った。「藤井さんは実は、派手さはないけど少しずつポイントを重ねていくタイプ。しっかり丁寧に受ける。攻めても受け手も勝っている時は、つい攻めていって、受けは『これぐらいでいいだろう』と見切ったりしがちなんですが、藤井さんにはそれない。良くなっても勝ちを急がないで、丁寧に指すというのは感じますね」と舌を巻いた。
日本中の期待を受け、将棋界の未来を担って突き進む藤井七段。とはいえ、そこに立ちはだかる先輩たちの壁も、やはり尋常ではない。渡辺三冠はカド番に追い込まれたが、2008年の第21期竜王戦では羽生善治九段(49)に3連敗の後4連勝で初代永世竜王の座に輝いた。
思えば屋敷九段も、初タイトルは中原誠十六世名人(72)に2連敗後、3連勝で獲得した。それだけに「藤井さんも言っていた通り、五番勝負は5局で1つの勝負。まだわかりません」との言葉には重みがある。ここからあと1勝を得るには、もう一段階上の底力が要求される勝負。技術だけでなく体力、精神力を総動員した、AIでは生み出せない究極の戦いに期待したい。(デイリースポーツ・福島大輔)