【芸能】令和でも染みいる「サザエさん」の温かみ 「長谷川町子記念館」オープン
館内に漂う雰囲気に、ほっこりした気持ちにさせられた。「サザエさん」の作者として知られる漫画家・長谷川町子さんの生誕100年を記念して東京・桜新町に11日にオープンした「長谷川町子記念館」。報道陣向けの内覧会で取材した際、懐かしい感覚がよみがえる瞬間があった。
作品の貴重な原画や画材道具、資料を展示して、長谷川さんの生涯と功績を紹介。死去後に受賞した国民栄誉賞の盾もあった。企画展示室には、初版本や表紙原画がズラリと並んでいた。収蔵品は約1万点にのぼる。
そして、この記念館には、世界観に浸れる遊び心があふれていた。玄関前では代表作の「サザエさん」、「いじわるばあさん」、長谷川町子さんの3人が立ち話している像がお出迎え。1階の展示室には、漫画に出てくる昭和20年代のお茶の間が再現された一角があり、その横には塀を模した電子黒板に落書きをして遊べる仕掛けが。タッチペンを利用した、壁に映るサザエさんの電子塗り絵もある。子供も十分に楽しめるだろう。
実際に本を手に取って読めるのはもちろん、検索したデータベース画面で、原画の作品を鑑賞することも可能。最新の技術を使い、古き良き時代を味わえる空間となっていた。キャラクターグッズに囲まれながらひと息つけるカフェもある。
記念館は、85年に開館した「長谷川町子美術館」の向かい側に新設された。美術館は長谷川さんと姉が収集した美術品を展示しているが、長谷川さんの漫画資料を展示していると思った来場者が多かったため、急きょ館内に「町子コーナー」を設けて対応していた。ファンの希望に応える道を模索してきたところ、6年前にちょうど美術館の向かいの土地があくことに。設計から完成まで3年弱の期間を経て、オープンが長谷川さんの生誕100年となったのも、何か巡り合わせが感じられた。
取材中に印象に残ったのは、川口淳二館長(75)の言葉だ。長谷川作品を「昭和の時代に生まれながらも永遠であると思っている」とし、理由を「家庭の中で起こっていることを4コマの起承転結で描いている」と説明。時代は平成も終わって令和に移り変わったが「元号が変わっても、家族・家庭というものは普遍(のテーマ)で、大事ではないかな」と訴え「今の方たちに、原点の長谷川作品を見ていただきたい」と願った。
記者も「サザエさん」の漫画を読み、テレビでアニメを見て育った。ひさびさに作品に触れて感じたのは、やはり今読んでも面白く、そして温かいということ。コロナ禍に見舞われた大変な今だからこそ、家族やつながりを再認識させ、心を穏やかにしてくれる長谷川作品を味わうにはいい機会かもしれない。
(デイリースポーツ・藤田昌央)