【競馬】可能性を感じさせる九州産馬ヨカヨカ 豪雨被害の地に希望の光を
6月12日の阪神5R(芝1200メートル)で、九州産馬のヨカヨカ(牝2歳、栗東・谷、父スクワートルスクワート)が鮮やかにデビュー勝ち。九州産馬限定戦ではなく、レベルの高い一般馬を負かしたことは大きな話題となった。マイノリティーを愛する、いかにも日本人好みのタイプ。「一体どんな馬なのか?」。そんな好奇心を抱いて谷厩舎を訪れた。
取材したのは7月8日。熊本地方が過去最大級と言える水害に見舞われた日の翌日だった。私の思いを担当の川端強調教助手に伝えると、開口一番「今、九州が大変だよね。大きなことは言えないけど、ヨカヨカが頑張ることで、少しでも九州を元気づけられれば」と思いを告げた。
熊本県の本田土寿牧場で生を受けたヨカヨカは、今年4月のJRAブリーズアップセールで、九州産としては高値の1122万円で取引された。翌5月に栗東・谷厩舎へ入厩。「ある程度、馬はできていたからね。ゲートもすんなりと合格。ただ、入厩当初はウッドチップに慣れていなかった。速い調教をやると、脚を取られてどうにもならなかった」と同助手は振り返る。
しかし、ヨカヨカの学習能力は高かった。チップでの走りに慣れてくると、5月28日の坂路でラスト1F12秒0を計時。6月10日の最終追い切りでは、それをさらに上回る11秒9をはじき出した。「(体重の軽い)見習い騎手が乗ったとはいえ、動いたよね。チップに慣れてきたのは大きかった。ただ…」。
調教内容がハードになると、精神面が煮詰まってきた。「カイバを食べず、ピリピリとしてきてね。480キロで入厩した馬が、450キロ台まで体重が落ちてしまった」。だが、ここでもヨカヨカは肉体面の強さを見せる。限界を超えると、心身ともに楽になったという。「レース前に苦しいところを乗り越えられたのが良かった。あれからカイバを食べるようになり、いい形で新馬戦を迎えられた」と安どした。
そしていざ、一般馬相手の新馬戦へ。発馬でやや出負けしたものの、二の脚で中団に取りつき、折り合いもピタリ。「ああいう競馬ができたのはかえって良かった。先団を見ながら競馬ができたのは大きい。引っかかる面もなかったからね」。直線は1番人気モントライゼとのマッチレース。道中で脚がたまった分、しまいまでしっかりと伸びた。ラスト1Fでは勝負根性も発揮。ゴール前できっちりと頭差競り勝った。
「普段から我の強いところがある」と話すように、デビュー戦のパドックはかなり苦労したそう。「右に逃げて大変だった。二人引きで良かった。まだまだ馬が子ども。まあ、今のところはそういう面も、走ることに対していい方に向いてるから良かった」と苦笑いを浮かべる。ちなみに、新馬戦で負かしたモントライゼは、次戦の2歳未勝利戦(芝1200メートル)を大差勝ち。ヨカヨカの価値をさらに高めた。
岡浩二オーナーの所有馬とあって、レース後は鳥取県の大山ヒルズへ放牧。今年のダービー馬コントレイルとともに英気を養っている。「きちんと回復したところで放牧に出したから、きっといい形で戻ってくるはず」と期待を込める。
次走は夏の小倉競馬での復帰を予定。九州産馬限定のひまわり賞(8月29日・小倉、芝1200メートル)はもちろん、ヨカヨカの能力があれば、G3の小倉2歳S(9月6日・小倉、芝1200メートル)でも好勝負が期待できるだろう。「早めに賞金を加算して、桜花賞を目指したい。掛かる馬ではないからマイルも持つと思う」。今後への期待は高まる一方だ。
谷厩舎で岡オーナーの所有馬と言えば、昨年6月、レース中に故障を発症し、安楽死の処置が取られたメイクアップが目に浮かぶ。個性的な“白面”で人気があった栗毛馬。川端助手にも期する思いがある。「僕自身は去年、岡オーナーのウマカモンという九州産馬を担当していた。坂路で(4F)51秒台が出るのに、気性が災いして競馬では結果を出せず、納得がいかなかった。その悔しい思いがあったからこそ、ヨカヨカは何とかしたかった。また、ウマカモンで苦労していた頃に(僚馬の)メイクアップの事故も重なって…。だから今は2頭のバトンを受け継いだヨカヨカで頑張りたい。活躍することで、九州の馬産を盛り上げられたら」。
九州産の活躍馬にはコウエイロマン(98年小倉2歳S)やテイエムチュラサン(05年アイビスSD)らがいるが、“最高傑作”と呼ばれるヨカヨカには、それらの活躍を上回る可能性を感じさせる。来春の桜花賞出走はもちろん、九州産の歴史を塗り替えるような活躍を期待せずにはいられない。
(デイリースポーツ・松浦孝司)