【競馬】コロナ禍にある北米で、日本人騎手が奮闘中 木村和士騎手のリアルな声
世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスの影響は、当然のとこながらJRAにも及んでいる。この夏は関係者の移動を避けるため、札幌開催中の函館滞在、いわゆる“裏函”がなしに。新潟競馬は15日から制限付きでファンの入場を再開するが、2回小倉、2回札幌は無観客競馬を継続。また、1日から再開される予定だった口取りが、感染再拡大により一転して取りやめとなるなど、通常の状況に戻るにはまだ時間がかかりそうだ。
日本より感染者数の多いアメリカはどうなのか。各競馬場で開催を中止していたが、チャーチルダウンズ競馬場は5月16日、ベルモントパーク競馬場が6月3日、ウッドバイン競馬場は6月6日からといったように、無観客でレースを再開している。ただ、ケンタッキーダービーは9月5日、プリークネスSが10月3日に延期され、北米でもカナディアンインターナショナルSが中止となり、カナダ三冠の日程も大幅に変更するという異例の事態に。また、日本でもおなじみのウンベルト・リスポリに、米三冠ジョッキーのヴィクター・エスピノーザ。さらに、ファビアン・プラ、マーティン・ガルシア、ルイス・サエスら、トップジョッキーから新型コロナの陽性反応が出たと報じられたのは驚きだった。
現場の生の声が聞きたい-。1月23日に日本人として初の快挙となる、エクリプス賞の最優秀見習騎手部門を受賞した木村和士騎手(20)に電話取材させてもらった。「開催の再開までは、ほとんど外に出なかったですね。ジョッキーは調教も乗れないし、店も閉まっているから家にいるしかなかった。ウイルスが広まりだした当初はマスクを着けない人も多かったですから」と振り返る。
彼の主戦場は北米のウッドバイン競馬場。開催は6月6日に再開し、無観客でレースが行われている。「ウッドバインはパドック、返し馬、口取りはマスク着用。ゲート裏でマスクを取って、レース中は外していい事になっています。検量室でジョッキーらがしゃべっていると、注意されることもありますね」。アメリカ全土で共通したルールも設けられている。「レース前の検温、状態チェックは徹底的に管理されています。あと、ウッドバインのジョッキーは他の競馬場では騎乗できない。ニューヨーク(ベルモントパーク競馬場)のジョッキーはウッドバインで乗れないし、そういった移動の制限を設けられています」と説明してくれた。
そんな厳しい状況下でも、木村ジョッキーの活躍は目覚ましい。エクリプス賞受賞の影響も大きいという。「光栄な賞をいただいたと改めて感じます。受賞以降、オーナー、トレーナーから声をかけてもらうことが多くなったし、今はマーク・キャシー調教師の馬を中心に依頼を頂いています」。昨年のプリークネスS優勝馬ウォーオブウィルや、ベルモントS優勝馬サーウィンストンを管理し、今年、アメリカ競馬殿堂入りしたトップトレーナーから支持されているというから、すごいの一言。“KAZUSHI KIMURA”の知名度は日増しに上がっている。
勝ったレースのレース映像を確認したが、記者目線でも分かるほど、追うフォームが他のジョッキーとは違う。とにかくダイナミックで馬が伸びる。「そう言ってもらえるとうれしいですね。うまくいい位置につけて、そこからどれだけ追えるか。それが自分のセールスポイント、ストロングポイントだと思っています。それを意識してトレーニングもしていますし、追うことなら、誰にも負けないと思っています」と力を込める。
さらに目を引いたのがクレバーな技術だ。アルカラインという馬に騎乗した7月16日の芝戦。2頭の間を割ってVへと導いたのだが、まさに視野の広さが伝わる競馬だった。「過去のレースを分析して、外に膨れる馬がいるのを確認済みでした。その後ろのポジションを取れば勝てる確率は上がりますから。思い通りに運べました」。やはり、会心の騎乗だったようだ。
ほぼ毎日のように、勝ち鞍を積み重ね、3日現在で258鞍に騎乗して35勝、2着47回、3着32回の成績。「G2も勝たせてもらいましたけど、リーディングを目指すにはまだまだ物足りない数字です」と高みを目指す。
将来的に描く目標は、ナンバーワンとオンリーワンだ。「サウジCのマキシマムセキュリティなんて、L・サエスじゃなかったら勝っていないんじゃないかなと思う。モレイラの“マジックハンド”じゃないけど、自分も“カズシじゃなかったら勝てなかった”と言ってもらうと誇らしいし、うれしい。特別なジョッキーを目指して、もっと腕を磨きたい」と意欲満々だ。
エリザベス女王の所有馬騎乗に、エクリプス賞の受賞など、木村ジョッキーはこれまで何度も“日本人初の快挙”で記者を驚かせてくれた。今年は既にカナダ三冠の1冠目、クイーンズプレートS(9月17日・ウッドバイン)に騎乗予定がある。「今は2頭を確保できていますが、もっといい馬の依頼があれば、そちらにと思っています。マーク・キャシー調教師の馬も使うでしょうから。少しでもチャンスがある馬を選びたい」と話す。騎乗機会はもちろんのこと、今やパートナーを選べる立場にある。
「小さい頃から馬に乗ることが一番楽しかった。この職業に就けたことを幸せに感じながら、今も馬乗りを楽しんでいます」。コロナ禍の異国で、20歳の若武者が日の丸を背負い奮闘している。18年5月28日の米国デビューから2年2カ月がたった。これからも、色んな話題で驚かせてくれることだろう。(デイリースポーツ・井上達也)