【競馬】魅力たっぷりの直線競馬 西の千直巧者・鮫島駿に聞く
筋骨隆々のサラブレッドがエンジン全開で駆け抜け、画面越しでもその迫力が伝わってくる新潟競馬場の直線芝1000メートル戦。国内で唯一の直線競馬ということもあり、枠順や脚質などの有利不利が顕著に表れるコースだ。そんな特殊な舞台なだけに、馬はもちろんだが、騎乗する騎手の千直への適性も予想するうえで大きなファクターのひとつになる。
過去10年では千直名人として名高い西田雄一郎騎手(45)=美浦・フリー=が17勝を挙げているが、新潟での乗り鞍が少ない栗東所属のジョッキーも勝率では負けていない。今回は西で最多タイの5勝を挙げる若手のホープ・鮫島克駿騎手(23)=栗東・浅見=に、この特殊なコースをひもといてもらった。
まず、どんな馬が新潟芝1000メートル初出走で穴をあけるのか。「鮫島駿」+「新潟芝1000メートル」で多くの人が思い浮かべるライオンボス(牡5歳、美浦・和田正一郎厩舎)は昨年のアイビスSD覇者で、直線競馬の一線級で活躍する快速馬だ。そんなライオンボスでも昨年5月の初めての千直(邁進特別)では、16頭立ての15番人気だった。当時はまだ多くのファンが千直適性に気づいていなかったが、このレースで初めてライオンボスとコンビを組んだ鮫島駿は、「乗る前から適性を感じていましたし、(ハナに)行ける自信もありました」と振り返る。
「過去の映像を見ていたら1000メートルが合いそうだなと思っていた。テンのスピードが速いし、楽に行けていましたから。ゲートも重要で、出遅れリスクがある馬は映像を見ていても分かります」。電撃戦とあって、やはり印象以上にゲート、そして出てからの二の脚が千直では大事な能力のようだ。確かに今見返すと、ライオンボスは千直を使う前のダート1000メートル戦でも楽な手応えでハナを奪っていた。
今年のアイビスSDでライオンボスを負かしたジョーカナチャンの初千直時(13番人気1着)にも騎乗しており、「調教から乗っていて、前向きな印象が強かった」と前進気勢も大きな要素らしい。千直初出走の馬は適性に気づかれず、意外と人気を落とすことが多い。過去の映像をスタートダッシュの脚に注目して見るだけでも、穴馬券ゲットにグッと近づけるはず。
枠順もこの舞台ではかなり重要な要素。断然外枠有利というのは周知の事実で、「レースより枠を見る時の方がドキドキします」と話すほどだ。内外でそこまで大きな差が生まれる理由を「開幕週でも外の方が馬場状態がいいですし、馬が苦しくなった時にラチを頼って走れますから。しんどくても最後まで頑張れます」と教えてくれた。
また、この外枠有利の傾向は重、不良時にさらに顕著に表れる。過去10年で16レースあり、7、8枠が14勝と『無双』状態。馬場状態の良さがより一層際立つのだろう。8月9日の驀進特別で7枠から9番人気で3着に持ってきたクラシコもその一例。「馬場を考えて外ラチ沿いを走らせた」と狙い通りだった様子だ。
ちなみに個人的に気になっていた路盤の傾斜。発走時のパトロールビデオを見れば分かりやすいが、ゲートを真正面から見てフルゲートの際の12、13番枠付近を頂点に、なだらかな傾斜がある。何かしら関係あるのではと思っていたが、「乗っていてあまり分からなかったですね」と外枠有利との因果関係は薄そうだった。
また、レースに向かうにあたり、下準備でかなり頭を使うという。「最初のコース取りを意識して、できるだけストライドロスのないようにと心掛けています。横の動きの1完歩、2完歩の切り返し…。そういうのをなくそうと。0・1秒、0・0何秒でも違うと着順が変わるコースですから」。わずか約55秒間のレースに対して、準備時間の方がはるかに、はるかに長い。だからこそ少ないチャンスで結果を残せているのだろう。
そんな努力を積み重ねて、巡り会えたライオンボスの存在は本当に大きい様子。重賞初制覇が懸かった昨年のアイビスSDで騎乗予定だったが、前日に落馬負傷して無念の乗り代わりに。悔しい気持ちを押し殺して病室で雄姿を見届けた。「その時が初めてのケガでした。メンタル的にしんどかったんですが、『復帰したらまたライオンボスと走れるんだ』という気持ちがあったから、3カ月のリハビリを頑張れました。騎手人生において特別な馬です」。心の支えとなった相棒に感謝しつつ、「今年(アイビスSD2着)は相手に理想の逃げ馬の立ち回りをされて、たくさんの支持に応えられませんでしたが、この馬はこれが最後ではありません。可能性を秘めていて楽しみが大きい馬ですし、また一緒に走れる時は精いっぱい頑張ります」と気を引き締めた。
馬券予想的にも、馬と人のドラマ的にも、1分にも満たない間に面白さがギュッと詰まっている直線競馬。鮫島駿からのアドバイスを馬券に生かしつつ、ライオンボスとのコンビでの活躍にも大いに期待したい。(デイリースポーツ・山本裕貴)