【野球】物議醸した巨人・増田大の投手起用 裏には原監督の柔軟な発想力と周到な準備
プロ野球は開幕から2カ月が過ぎた。8月前半の大きな話題となったのはやはり、野手の増田大の阪神戦登板だろう。この試合を生で見ることができたのは光栄に思う。
ネット裏後方の甲子園の屋外記者席。八回に巨人の大敗が決定的となり、記者はどんな敗戦記事を書くか会社との打ち合わせをしようとしたところ「ピッチャー増田大輝」とアナウンスが響いた。「ピッチャーで増田っていたっけ?」と自問自答。聞いた時は頭頂部に?マークが浮かんだような感じだった。初めてマウンドに目をやり、背番号0、走塁のスペシャリスト増田大が投球練習をしているのをみて、現実だったのだと我にかえった。
メジャーではよくある野手登板。日本では見ることが少なく、否定するプロ野球のOBの方もいた。プロ野球の神聖なマウンドを経験しているものしか分からない意見があると思うが、この采配、原監督が実に柔軟な発想の持ち主であり、ありとあらゆることを想定している監督だからこそできたと感じた。
試合後、開幕前から、コーチ陣を通じて、増田大や岸田といった投手経験のある野手に通達していたことも、明かされた。2人の打者を抑えた増田大は見事としか言いようがないが、それは万全な準備があったからこそだ。
今を思えば、準備をした上でのあっと驚く采配は昨年もあった。開幕前の練習試合や、オープン戦で指名打者を解除して野手を守備に就かせることもあった。ただ経験を積ますとかでなく、本番を想定してのDH解除。二刀流の大谷が指名打者を解除し、投手になったのとは違う。その当時原監督は「危機管理的な部分でね。そういう状況がくるケースというのはなきにしもあらずでしょ」と話していたのを思い出した。この年の6月の西武との交流戦。指名打者で起用した重信選手を終盤、指名打者を解除して、守備に就かせるシーンもあった。その日は快勝した。
物議を醸した野手・増田大の登板も、コロナ禍で行う過密シーズン。長期連戦を考えれば、中継ぎ陣を休ませることができた。場当たり的に考えていたとしたらあの場面、野手登板に踏み出せなかったはず。他球団でそこまで考えていた監督はいないだろうし、あらゆる準備を想定している、有事への備えが深くできているチームだからできたのだ。
試合後「チーム最善策です」と答えていた原監督。優勝に向かうための、シーズントータルで考えた上での英断だったように思う。(デイリースポーツ・水足丈夫)